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「集団的自衛権祭り」への冷ややかな雑感

法哲学

 衆院憲法審査会での憲法学者による違憲発言以来、「集団的自衛権祭り」とでも言うべきものが活況を呈しているが、ともすれば強力な磁場に捉えられ、「友/敵」的かつ不毛な議論になりがちなところ、以下、備忘を兼ねて twitter で記したものなども含め記し留めておく。

 6月15日(月)「報道ステーション」が、安保関連法案について、判例百選の執筆者198人に対して行ったアンケートの結果を公表し、うち151人が回答。個人的には、198-151=47人に目が行ったが、あら、四十七士とは・・・アンケート結果は以下の通りである。

 報道ステーション

 このアンケート、違憲判断を示した者のうち原理主義的護憲派(そもそも自衛隊の存在自体が違憲)は、どれくらい居るのだろうか、とも。長谷部流の修正主義的護憲派(自衛隊+安保条約=合憲)と、その間には本来、大きな溝があるはずだろう。

 追記だが、長谷部氏の現在の立場は、1998年に行われた全国憲法研究会春季大会での報告を元にした「平和主義の原理的考察」『憲法問題』(10号、1999年)で最初に公表され、のちに『憲法と平和を問いなそす』(ちくま新書、2004年)で一般向けにまとめ直されている。 

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

 

   原理主義~、修正主義~は、井上達夫の用語法なのだが、今般の件に関して、改めて井上の「九条問題再説」(『法の理論』33号所収)を読み、わたし自身は井上の議論が最も適切であると改めて感じた。つまり、「九条削除」論である。これに関しては、是非、井上の論攷に直接あたられたい。このエントリーで記すには長すぎるので、先ずは、後段であげる井上の新著を読まれることをオススメする。

● 井上達夫「九条問題再説」『法の理論』33号、成文堂

 http://www.seibundoh.co.jp/pub/search/028486.html

 ごく簡便 な形での井上達夫の「9条削除論」は、以下のリンクなどを参照されたい。

blogos.com

 

 集団的自衛権そのものに関しては、元同僚の森肇志(国際法)が以下のように、幾つかの場所で非常に分かりやすく説明を行っているが、これに同意する。最初の神奈川新聞の記事は、インタビュアーの姿勢に相当な疑問を感じ、インタビューを受けている方も大変だったのではないかと深く同情する。

www.kanaloco.jp

www.nikkei.com

 

 少し前の『アステイオン』(2014年81号)に掲載された苅部直の「新しくない憲法の話」も参考になる。苅部は、「集団的自衛権祭り」に対して冷ややかな視線を投げかけているが、これには全くもって同感である。

 この中では、佐瀬昌盛『いちばんよくわかる集団的自衛権』(海竜社)が紹介されているが、昨日の報道ステーションを観たあと、私じしん改めて読み返したところ、まことに納得がゆく内容であることを再確認した。 

いちばんよくわかる集団的自衛権

いちばんよくわかる集団的自衛権

 

  また、上記と合わせて鈴木尊紘「憲法第9条と集団的自衛権--国会答弁から集団的自衛権解釈の変遷を見る」『レファレンス』2011年11月号も参照されたい。

 http://ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/pdf/073002.pdf

  苅部氏が書かれたものとして、出てから1年以上経っているのではあるが、以下もとても参考になる。

www.nippon.com

 報ステのアンケートに関しては、自由記述欄の中のめぼしいものを幾つか読んだが、片桐直人(阪大)、浅野善治(大東文化)の両氏のコメントに浅からぬ見識を感じた。

 片桐:http://www.tv-asahi.co.jp/hst/info/enquete/17.html
 浅野:http://www.tv-asahi.co.jp/hst/info/enquete/31.html

 

 しかし、何人かの人も指摘しているように、このような「踏み絵」的なものが、無前提に肯定されるべきだろうか。アンケートに関連して、以下のようなものもあった。判例百選の著者悉皆一覧をつくっているのである。このような一覧を目にすれば、件のアンケートの「踏み絵」性が良く分かるのではなかろうか。 

 森の人:憲法判例百選執筆者一覧 & 安保法制の合憲性 - ブログ

 「盛り上がっている」人びとは「立憲主義」の何たるか、或いは「学問の自由」について、もう少し冷静に考えるべきである。よもや天皇機関説事件を忘れてはいないだろう。

  ・・・その後、6月23日、千葉大の小林正弥教授(政治哲学)は、国政調査権の発動による全憲法学者の当該問題に関する意見調査を行うべきだとの提言を行うに至っている。予想の斜め上を行く展開である。

www.asahi.com

  大切なことなので繰り返しになるが、井上達夫の「九条問題再説」は是非多くのひとに読まれることを望みたい

 ・・・ その後、下記の『リベラルのことは嫌いでも~』を入手して読んだが、この中では「九条削除論」が非常に分かりやすい形で提示されてはいるものの、「九条問題再説」の方が圧倒的に詳細なので、出来る限り、そちらも読むことを(是非)薦めたい。

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください??井上達夫の法哲学入門

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください??井上達夫の法哲学入門

 

  以上については、改めて活字化されたものを遠からず書こうと腹を括ったが(そのような腹を括らねばならない言論空間自体がオカシイ)、今般問題になっているような安全保障をめぐる議論が、独り憲法解釈学の観点のみから喧喧諤諤されている状況は健全とは言い難く、より広く、国際法、国際政治、政治史、政治学などの観点からも複合的に議論されるべきだと強く思い、また、そうなることに希望を繋ぎたい。

 

 追記:その後、雑誌『en-taxi』2015年 Vol. 45に「「九条問題再説」

~欺瞞を超えて」という小文を寄稿した。趣旨は、このエントリーと同旨である。

f:id:Voyageur:20150903090938j:plain

en-taxi,田中小実昌――あても正体も捨てて探すひと|雑誌|扶桑社

 

 

追記:井上達夫『リベラルのことは嫌いでも~』については、池内恵氏による以下のエントリーが参考になる。

ikeuchisatoshi.com