還暦記念論集『逞しきリベラリストとその批判者たち』発売のご案内

 大変お待たせしましたが、本日8月30日(日)段階で、『逞しきリベラリストとその批判者たち--井上達夫の法哲学』のAmazonでの販売が開始されており、また、週明けの9月初旬には書店にも並ぶとのことです。 

逞しきリベラリストとその批判者たち―井上達夫の法哲学

逞しきリベラリストとその批判者たち―井上達夫の法哲学

  • 作者: 瀧川裕英,大屋雄裕,谷口功一,安藤馨,松本充郎,米村幸太郎,大江洋,浦山聖子,藤岡大助,吉永圭,池田弘乃,稲田恭明,郭舜,奥田純一郎,吉良貴之,平井光貴,横濱竜也,宍戸常寿,森悠一郎
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 単行本
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  以下では、共編者のひとりとして、簡単な紹介をしておきたいと思います(谷口による補足も行った詳細目次は以下の通り)。

 ● はじめに(瀧川裕英)

《第Ⅰ部》

第1章 『規範と法命題』――行方を訊ねて(安藤馨)
第2章 『共生の作法』――円環の潤い(谷口功一)
第3章 『他者への自由』と共和主義の自由(瀧川裕英)
第4章 『現代の貧困』――批判的民主主義の制度論(松本充郎)
第5章 『普遍の再生』――どのようにして? そしてどのような?(米村幸太郎)
第6章 『法という企て』――人格への卓越主義?(大屋雄裕)
第7章 正義に基づく『自由論』(大江洋)
第8章 『世界正義論』――「諸国家のムラ」をめぐる疑問(浦山聖子)

《第Ⅱ部》

第9章 分配的正義(藤岡大助)
第10章 リバタリアニズム(吉永圭)
第11章 フェミニズム(池田弘乃)
第12章 戦後責任(稲田恭明)
第13章 憲法第9条削除論(郭舜)
第14章 生命倫理(奥田純一郎)
第15章 時間(吉良貴之)
第16章 法の本質(平井光貴)
第17章 立法学(横濱竜也)

《第Ⅲ部》

● 対談:「外部から見た井上/法哲学」(宍戸常寿×大屋雄裕/司会:谷口功一)

● 附録(森悠一郎)

Ⅰ 井上達夫教授著作目録
Ⅱ 井上達夫教授略年譜

● 編集後記(谷口功一)

● 索引 

 内容についての話に入る前に大書して強調しておくべき点は、本書は還暦記念論集の性格を持つものであるにも関わらず本体価格が、

 

 わずか3,000円!

 

 ・・・という点です。これに関しては本書の「はじめに」や「編集後記」でも強調されている点ではありますが、ひとえに版組みに関して甚大なご努力を頂いた安藤馨さんのお蔭であり、この点、改めて深謝したいと思います。これは前代未聞といっても良い価格ですので、価格面からも多くの方に手に取って頂ければと思っています。

 さて、既にご案内の通り、本書は井上達夫先生の還暦記念論文集の性格を持つものですが、従来的な還暦記念論集などとは異なり、第Ⅰ部では井上達夫の単行著作について、1冊ごとに担当者を決めて、その内容の紹介と批判的検討を行っています。
 また、第Ⅱ部では、井上達夫の法哲学世界に関わる個別イシューに関して、その領域を専門とする者が第Ⅰ部でと同様に井上の議論の紹介と批判的検討を行っています。

 共編者のひとりとして、私は主に企画立案、原稿回収に関わらせて頂きましたが、既に編集の段階でひと通り原稿に目を通した上での(個人的)感想は以下の通りです。

 読者によって読みドコロは様々にあろうかとは思いますが、本書最大のセールスポイントの一つは、安藤馨による「規範と法命題」に関する本格的論攷(第1章)の存在です。
 これまでその存在は知られていたものの、井上の助手論文を元にしたこの論文の内容紹介と批判的検討が行われているのは《本邦初》であり、それが読めるのは、本書だけです。

 各章ともに興味深い内容となっていますが、個人的にもっとも興味深く読んだのは、瀧川裕英による『他者への自由』に関するもの(第3章)で、そこで展開されている井上法哲学と「共和主義」との関係についての議論には、はっとさせられるものがありました。
 この他にも、第Ⅱ部では、昨今議論の喧しい、九条関連で、国際法学者でもある郭舜による井上の「憲法第9条削除論」の検討なども行われています。

 なお、わたし自身は、第Ⅰ部第2章で『共生の作法』を担当させて頂いていますので、そちらの方もお読み頂ければ幸いです。後述の対談パートでも出て来る九〇年代の時代状況の話から始まり、主として「会話としての正義」についての検討を行っています。

 

 以上の本体部分とは別に、本書には3つの豪華なオマケが付いています。

 一つめの豪華オマケは、かつて井上法哲学ゼミにも参加されていた憲法学者の宍戸常寿氏(東京大学)をお招きし大屋雄裕との間で行った対談「外部から見た井上/法哲学」です。
 同じ時期に井上ゼミで学んだ、宍戸(憲法)×大屋(法哲学)の対談を私(谷口・法哲学)が司会として切り回す形になっていますが、ほぼ完全に同世代のこの3人が九〇年代の駒場時代から回想し、今日にいたるまでの井上法哲学を語るものとなっており、一種の世代的な歴史の記憶としても読んで頂けるのではないかと思います。この中では井上の「九条削除論」についても触れています。また、宍戸さんによる井上法哲学とドイツ公法学(シュミット、スメントなど)との対比も読みドコロの一つかと思います。

 二つめと三つめの豪華オマケは、井上達夫の「著作目録」と「略年譜」です。これらは現在、法哲学の助教をされている森悠一郎さんの強力な調査能力によって作成されたもので、今後も長く役立つ一級の資料となるでしょう。

 つい先日、井上先生ご夫妻もお招きし、本書の献呈式を都内のレストランで行って来ました。本書は企画立案から刊行に至るまで、井上先生にはナイショで作られたものですが、献呈式の際には井上先生から「なんかコソコソやってると思って、分かってたんだゾ!」と言われてしまいましたが、ともあれ、今般このような形で還暦記念論文集を刊行出来たことを本当に嬉しく思っています。

 以下、本書末尾の「編集後記」から抜粋し、本エントリーの締め、というコトで。本書が多くのひとの手に取られることを期待したいと思います。

 大昔のノートを取り出して見ると、私が初めて井上達夫先生の姿を目にし、その声を耳にしたのは、1995年10月3日の火曜日だったことが分かる。この年の「法哲学」の初回講義が、本郷キャンパス法文1号館21番教室で行われた日だ。 
 今日に到るまでの人生の大きな転回点となった、この日この場所での出来事を、私は生涯忘れることはないだろう。それから、ちょうど20年の歳月を経て、今般、井上先生の還暦記念の書に執筆者の一人として名を連ねることが出来たことは、私にとって大いなる悦びであり、また幸いである。本書をもって、海よりも深く山よりも高い井上先生の学恩に些かなりとも報いることが出来ればと思うばかりである。(谷口功一)