『立法者・性・文明』著者解題

 2023年10月1日(日)、拙著『立法者・性・文明――境界の法哲学』(白水社)が発売になりました。まずは目次を掲載しておきます。

はしがき
第Ⅰ部 法と政治のあわい
 第1章 立法者の人間学
 第2章 党派性と公共性
 第3章 ミル・代議制・中国
 補章    面白うて、やがて神聖なる喜劇

第Ⅱ部 性の越境
 第4章 ジェンダー/セクシュアリティと公共性
 第5章 性同一性障害特例法の立法過程
 第6章 宴のあとに――立法所感

第Ⅲ部 文明のボーダー
 第7章 郊外の多文化主義
 第8章 ミートボールと立憲主義
 第9章 モスク幻像、あるいは世界史的想像力
 補章    軽やかな「移動」と重厚すぎる「越境」

第Ⅳ部 フィクションへの臨界
 第10章 立ち尽くすノモス
 第11章 フィロソフィア・アポカリプシス
 第12章 疫禍と字典
 第13章 「思考の距離戦略」としてのゾンビ
 
あとがきに代えて ベルグソンの薔薇

 この本は、今から二〇年前、偶然の縁で所謂「性同一性障害特例法」の立法運動に関与したところから始まる私自身のこれまでの研究の軌跡をひとつのまとまりをつけて描き出したものです。

 従って、時系列的な出発点は本書の第Ⅱ部からということになりますが、上記の立法運動への関与から胚胎した立法そのもの(立法学など)に関する抽象度の高い話(第Ⅰ部)から話を始め、後段にゆくほど具体性(現実性)が濃くなるような構成となっています。

 第Ⅲ部の移民・難民に関する話は2015年の欧州難民危機以降に急激に前景化された事柄ではありますが、これがなぜ第Ⅰ部・Ⅱ部の話と繋がるのかは、実際に読んでもらえればお分かり頂けると思います。

 第Ⅳ部は、上記のような研究のメイン(主道)とは別に、ある種の気分転換的に行っていたものが、いつしか本当に研究としての意味を持つようになっていった「ゾンビ」の話などを中心とした私の研究の「杣道」パートです。

 

 本書の特長を思いつくままに列挙すると以下のようなものになろうかと思います。

 

● 性同一性障害特例法(2003)の立法運動をめぐる諸事象の完全な整理と分析
● ジェンダー/セクシュアリティの問題について考える際の法的・哲学的基礎の呈示
● 立法(過程)そのものについて考える上での「立法学」的な基礎工事
● 立法過程における「公共性」とは何なのかという問題の解明
● 移民/難民問題における「多文化主義の限界」
●「ナショナリズム」について真剣に考え、それに向き合う必要性について
● ジェンダー/セクシュアリティと移民/難民の間の「悩ましさ」あるいはアポリア
● 「ゾンビ」という文化的表象を通じて露わになる諸事象

 

 また、本を刊行してから自分でも改めて気付いたこととして、一面において本書は、現今のポリコレやキャンセルカルチャーなどの嘆かわしくも厭わしい動き・状況に対抗し、それらと戦うための理論的な武器庫を提供し得る本でもあると思いました。

 私自身、ここ数年は「スナック」や「夜の街」を研究する人間として世間に知られて来ていたので、上記のようなお堅い研究の話と夜の話とが、どのように繋がっているのかと訝しむ向きもあろうかと思いますが、半年前(2023年4月)に刊行した拙著『日本の水商売――法哲学者、夜の街を歩く』(PHP研究所)の底流に潜んでいた思想的基盤が実のところ、どのようなものだったのか--本書ではその一端が初めて開示されたのではないかと思います。

 なお、本書は三島由紀夫の『豊饒の海』第2巻「奔馬」の話から始まり、アンリ・ベルグソンの『意識に直接与えられたものについての試論』の一節で終わります。

 

 

 お手に取って頂ければ幸いです。

『日本の水商売』メディア登場のまとめ

 

 

 ーーメディア掲載等のまとめーーー

 

04月22日(土):とっとり研究所YouTube番組・最速新著レビュー

04月24日(月):Newsweek抜粋「ヤンキーの虎とサンデル

05月01日(月):東洋経済抜粋「いわきの一番店仕切るママの超旺盛な事業意欲

05月03日(木):「編集余録「夜の公民館」」十勝毎日新聞

05月05日(金):『文春オンライン』抜粋「銀座

05月08日(月):デイリー新潮「スナックに「一見客・県外客、お断り」の張り紙

05月08日(月):東洋経済抜粋「山梨県”人口当たり寿司屋の数全国1位”のなぜ

05月15日(月):時事ドットコム書評(スナック水中・坂根千里さん)

05月17日(水)「ことのはCH」収録・放映「佐々木俊尚・対談(ダイジェスト)

05月23日(火):bayfm『AWAKE』出演

05月29日(月):夕刊フジ、短評掲載

05月31日(水):ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozyup!」出演
 → Web記事化:「コロナ禍でも従業員を切らなかった飲食店が~

06月02日(金):玉袋筋太郎+飯田泰之・鼎談イベント(神保町・読書人隣り)

06月06日(火):『Voice』7月号、対談・若田部前日銀副総裁

06月14日(水):日刊ゲンダイ「著者インタビュー

06月17日(土):日経新聞「あとがきのあと」欄

06月19日(月):『AERA』書評(苅部直)

06月21日(水):全商連経営対策交流会・ミニ講演

06月23日(金):若田部対談(前編)「WEB Voice

06月26日(月):ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozyup!

06月27日(火):若田部対談(前編)のYahoo!ニュース転載

06月27日(火):若田部対談(後編)「WEB Voice

06月29日(木):若田部対談紹介「論壇委員が選ぶ今月の3点(砂原庸介)

06月30日(金):『週刊読書人』玉袋・飯田鼎談の記事掲載

06月30日(金):若田部対談(後編)Yahoo!ニュース転載

07月01日(月):毎日新聞「書評欄」掲載

07月07日(金):『中央公論』8月号「夜のインフラ、ラウンジの現在

07月22日(土):国際政治ch(カワノアユミ・大庭三枝)出演

08月06日(日):文化放送「浜美枝のいつかあなたと」出演

08月06日(日):読売新聞、連載「コロナの時代を読む」で紹介(苅部直)

09月15日(金):TOKYO FM The Lifestyle MUSEUM(ピーター・バラカン)

10月17日(日):第一興商「Singing~歌いながらいこう

10月24日(月):「夜の街-スナックは常識の共同体です」西日本新聞

10月25日(水):Webアステイオン「インターステラ-、或いは速度と帰還

 

著者解題『日本の水商売ー法哲学者、夜の街を歩く』(4月11日発売)

 本日、2023年4月11日(火)、拙著『日本の水商売――法哲学者、夜の街を歩く』(PHP研究所)が発売になりました。以下、著者解題に代えての簡単な本書の紹介です。

 

 この本は、二〇二一年一〇月末に札幌すすきのを取材で訪れたのを皮切りに始まった雑誌『Voice』での連載「コロナ下の夜の街」、全12回分+αをまとめたものです。以下から目次を見ることが出来ます。

 

 

 一年以上にわたりコロナ禍の下の日本列島を縦断する旅から旅への取材の日々を書き綴ったもので、その意味ではノンフィクション(ルポルタージュ)あるいは紀行文的な色彩を持つものとなっています。

 

 北海道札幌市・小樽市帯広市新得町青森県弘前市福島県いわき市、東京都は赤羽・西尾久・渋谷・銀座、神奈川県の武蔵新城山梨県甲府市鳥取県米子市境港市島根県松江市、福岡県北九州市大分県別府市――コロナ禍の下、10都道県・17の街を巡り歩きました。

 

 この時期に連載を持って全国を改めて巡り歩くことが出来、本当に良かったなと思います。コロナ禍の中、各地で人びとがどういう思いでお店をやっていたか、行ってみなければ分からなかったはずだから。

 

 もともと私自身がスナックのことについて調べたり書いたりし始めたのは、ただそれが「楽しいから」でした。「本業は法学者なのに何故スナックのことを?」と、よく質問されますが、端的に「楽しいから始めた」だけに過ぎないことが、コロナ禍によって全く違ったものに変質してしまったことを、この雑誌での連載を通じ、改めて思い知りました。

 

 コロナ禍の下での営業制限や自粛など、法学者としての本領を発揮すべき領域と夜の街に関する知見とが、たまさかに交錯した、この数年でした。最近では「この時(コロナ禍)のために自分はスナックや夜の街のことについて書き続けて来たんだな」と、ある種の「天からの召命」にも似たようなものさえ感じています。

 

 「スナックなどの〈夜の街〉とお堅い〈法哲学〉がどのように交差するのか?」

 

 本書を目にした少なからぬ人が恐らく抱くだろう疑問でしょうが、その理解の一助として、書籍のほうには収録されていない「登場人物名」と「参照文献」の一覧などを以下に記しておきます。

 

【人名】

西村幸夫、マイク・モラスキー飯田泰之寺山修司太宰治陸羯南大屋雄裕志村けんマイケル・サンデル藤野英人、柴山桂太、丸山圭三郎山本尚史フリードリヒ・ハイエク永井均フリードリヒ・ニーチェ荒井由実本居宣長、ロバート・パットナム、澤茂計・三澤彩奈、冨田克彦、井上周防守之房、森鷗外松本清張大西巨人藤原定家後鳥羽院池内恵、村井康彦、仲田泰祐、水木しげる松尾芭蕉小泉八雲岩屋毅、長野恭紘、横濱竜也、斎藤茂吉、林谷廣、宍戸常寿、都築響一岡本哲志、ジョーゼフ・キャンベル、ホメロス井上達夫、長谷部恭男、ロナルド・ドゥオーキン、石川健治、山羽祥貴、福田恆存福田歓一、ダイアン=ボレット、山本七平

 

【本書で登場するお店】

『スナック原価』北海道札幌市すすきの
『スナック・シャモン』青森県弘前市鍛冶町
『クラブ縷シャモン』青森県弘前市鍛冶町
『スナック・ピュア』青森県弘前市鍛冶町
『華姫』福島県いわき市田町
『スナック・貴石』神奈川県川崎市中原区武蔵新城
『唄語り 源山』神奈川県川崎市中原区武蔵新城
『スナック・みかづき山梨県甲府市裏春日
『スナック恋人』福岡県北九州市小倉鍛冶町
『ラウンジ香咲」鳥取県米子市朝日町
『スナックやまとなですこ』島根県松江市伊勢宮町
『スナックHATSUMI』鳥取県境港市
『ちはら21』大分県別府市北浜
『ぐらすほっぱー玉ちゃんのお店』大分県別府市北浜
『ラウンジ・ブリリア』静岡県浜松市田町
『スナックf』北海道新得町
『スナック・ときお』北海道帯広市
『唄声らうんじ あけぼの』東京都北区赤羽
『街中スナック』東京都荒川区西尾久
『バーAquavit』東京都渋谷区宇田川町
『倶楽部おかえりなさいさつま二』東京都中央区銀座

 

【参照文献】

第1章
■ 西村幸夫『県都物語』有斐閣
マイク・モラスキー『日本の居酒屋文化』光文社新書
■ 長谷部恭男『憲法学の虫眼鏡』羽鳥書店WEB連載「その16 憲法より大切なもの」

第2章
寺山修司「我が故郷」『現代歌人文庫③寺山修司歌集』国文社
太宰治津軽岩波文庫
大屋雄裕「行政手法としての公表――力の新たな形態か」『都市問題』2021年2月号

第3章
マイケル・サンデル『実力も運のうち-能力主義は正義か?』早川書房
藤野英人『ヤンキーの虎—新・ジモト経済の支配者たち』東洋経済新報社
マイケル・サンデル『民主政の不満――公共哲学を求めるアメリカ(下)』勁草書房
■ 柴山桂太「非英雄的起業家論」スコット・A・シェーン著、谷口功一ほか訳『〔新版〕〈起業〉という幻想――アメリカン・ドリームの現実』白水社

第4章
丸山圭三郎『人はなぜ歌うのか』飛鳥新社
山本尚史『地方経済を救う――エコノミックガーデニング』新建新聞社
永井均『これがニーチェだ』講談社現代新書
フリードリヒ・ニーチェツァラトゥストラ光文社文庫(丘沢静也訳)

第5章
荒井由実「中央フリーウェイ」(1976年)
■『和名類聚抄』
■ ロバート・パットナム『哲学する民主主義』NTT出版
■ 三澤茂計・三澤彩奈『日本のワインで奇跡を起こす』ダイヤモンド社
■ 映画『サウダーヂ』冨田克彦監督(2010年封切)

第6章
松本清張『或る「小倉日記』伝」新潮文庫
森鷗外『小倉日記』『森鴎外全集13』ちくま文庫
松本清張『鷗外の婢』光文社文庫
大西巨人神聖喜劇』光文社刊[全5巻]
佐佐木信綱校訂『新古今和歌集岩波文庫
■『明月記』
■ 村井康彦『藤原定家『明月記』の世界』岩波新書

第7章
■ 茅原クレセ『ヒマチの嬢王小学館[全19巻]
■ 石﨑修二『地産外商』山陰中央新報
■ 荻原千鶴全訳注『出雲国風土記岩波文庫
水木しげるゲゲゲの鬼太郎
松尾芭蕉/萩原恭男校注『おくのほそ道 付曾良旅日記 奥細道菅菰抄』岩波文庫
■ 仲田泰祐「感染対策と経済の両立へ日本は〝方向転換〞を決断せよ」『WEDGE Web』記事、2022年3月22日掲載。
■ 勝部昭『出雲国風土記と古代遺跡』山川出版社

第8章
■『豊後風土記
■『別府市住宅案内図』ゼンリン

第9章
斎藤茂吉『つきかげ』
■ 林谷廣『文献茂吉と鰻』短歌新聞社

第10章
参照文献無し

第11章
都築響一『東京右半分』筑摩書房

第12章
岡本哲志『銀座四百年 都市空間の歴史』講談社選書メチエ
■ ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』[新訳版〕上下巻』早川書房

ホメロスオデュッセイア岩波文庫(松平千秋訳、上下巻)

終章

■ 山羽祥貴「『密』への権利」上)」『法律時報』2021年5月号

福田恆存「伝統に対する心構」『保守とは何か』文春学藝ライブラリー
Bolet, Dian, 2021, Drinking Alone: Local Socio-Cultural Degradation and Radical Right Support—The Case of British Pub Closures, Comparative Political Studies, Volume 54, Issue 9
井上達夫『法という企て』東京大学出版会
■ 長谷部恭男『比較不能な価値の迷路』東京大学出版会
山本七平『空気の研究』文春文庫

 

 以上です。こんな本書を、興味をもって手に取って頂ければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜の街」の憲法論・拾遺~ MajiでTrump5秒前

 「Voice』誌に掲載し、その後Webにも転載された拙論「「夜の街」の憲法論――立憲主義の防御のために」、Webへの転載(のちYahooニュースにも転載)に対し、驚くほど大きな反響があった。多くの人びとの共感を得られたようで、書き手としては嬉しい限りだが、一刻も早くコロナ禍が解消され、スナックを始めとする多くの飲食店の皆さんが苦境から脱する日が来ることを祈るばかりである。

shuchi.php.co.jp

 以下では、一般向けの読み物だったので、誌面には掲載し切れなかった書誌情報などを中心に落ち穂拾い。

 

● 先ずは、いわゆる「二重の基準論争」に関わる文献の初出年も含む書誌情報だが、改めてこうして初出年を見ると論争が行われたのは主として1990年代前半であり、もはや30年前の話か、と・・・

井上達夫『法という企て』2003年、東京大学出版会、第6章
→ 初出、「司法部の機能」碧海純一編『現代日本法の特質』放送大学教育振興会、1991年 

 ■ 長谷部恭男『比較不能な価値の迷路[増補新装版]』第7章、2018年
 初出、「それでも基準は二重である!」憲理研編『人権保障と現代国家』敬文堂、1995年 

 

● なお、「営業の自由」に関しては、そもそも経済史学者・岡田与好による、いわゆる「営業の自由」論争というものがあり、それを下敷きとした上で様々な議論がなされているのだが、現時点で憲法学の領域で、この問題に関して最も簡にして要を得たのは、以下の石川論文であろうと思われる。

石川健治「営業の自由とその規制」『憲法の争点』有斐閣、2008 年、148 頁 

 ● 久しぶりに思い出したが、かつてジュリストで樋口陽一井上達夫・岡田与好による以下のような特集があった。今は手元にないので後で読み返してみよう。

■『ジュリスト』1991年5月15日号(No.978)
【特集】〈自由〉の問題状況
 ◇自由をめぐる知的状況――憲法学の側から……樋口陽一
 ◇自由をめぐる知的状況――法哲学の側から……井上達夫
 ◇自由をめぐる知的状況(研究会)……井上達夫/岡田与好/樋口陽一 

www.yuhikaku.co.jp

 


● 人口縮減と超高齢化という不可避の課題とスナックとの話は以下を参照。

www.jiji.com


● Bolet論文の書誌情報:

●「独裁者が恐れるのは・・・」:拙訳『〈起業〉という幻想』の「あとがき」 

  せっかくの機会なので、あとがきの該当箇所をスキャンしたものを以下に貼っておく。

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■ 山羽祥貴「『密』への権利(上)」法律時報2021年5月号

 

福田恆存「伝統にたいする心構え」『保守とは何か』文春文芸文庫、2013年 

 ■ 福田歓一(1983)「権力の諸形態と権力理論」『岩波講座基本法学6:権力』岩波書店

「国内について見ても、たしかに教育や福祉を、今日では権力作用と見る人は多くないかもしれない。けれども、その費用の多くは軍事費や治安対策費と同じく、結局租税として権力的に徴収されているのであって、公共部門の支出が国民総支出の30~40%にも達するのは、現代高度資本主義諸国の通例である。それだからこそ、政府は経済運営の責任を問われる立場にも立つわけであるが、しかし、この高い比率は平時においては前例のないところであり、その意味では公権力の国民生活に対する比重、その作用の範囲と深度は空前の大きさに達したと言って差し支えない。」[福田(1983):4]。

 

● そういえば、今回の原稿を書く際に長谷部の以下の本の中に驚くべき記述を見つけ、「あっ!」となった。ただ、この本は連載時から、一読、イギリス仕込み?の長谷部流ユーモア()が充溢(ニチャァ)しており、それもあって読んでなかったわけでオススメはしません。

■ 長谷部恭男『Interactive憲法有斐閣、2006年 

 

 以下、第3章「「二重の基準論」の妥当性」より

D:一般論として「なるほど」って思っちゃいますけど、たとえば、この二重の基準論に関する井上達夫=長谷部恭男論争なんて、どう理解すれば深まるんですか?
B:私が長谷部門下だって承知の上の振るまい、それ?バイアスがかかると思わないわけ?
D:大丈夫です。あとで井上門下のT先生のとこにもいうつもりですから。
B:解毒剤は用意してるってわけか。まぁいいわ。それで、この論争、何についての論争で、どういう点が論点になってるかぐらいは押さえてるわよね。

・・・「〈類題〉T先生の立場からB助教授の議論に対してコメントを加えよ。」30頁

 

●「二重の基準」論争について友人の学者と話していた際、芦部本とかには余り出てこないよね、という話になったりもしたんだけど、学生時代に読んだコレとかが二重の基準論とかについては一番詳しく書いてて、みんな読んでたんだっけ、とか。 

 

● 余談だが、先日、ふとしたことで「会社の正門で憲法は立ち止まる」という言葉を思い出した。確か佐高信によるものだったけと思ったのだが、、90年代の一時期、奥村宏とか内橋克人とかと法人資本主義批判を展開していたけど、その中の編著の一冊の中で、熊沢の本『民主主義は工場の門前で立ちすくむ』へのオマージュとして(多分)「会社の正門で憲法は立ち止まる」とかいう文章を書いてたと思うんだけど、その本は多分、研究室にある。 

 

● 久しぶりに法人資本主義批判とか思い出したけど、あの頃は、長尾龍一が『現代思想』に登場して、座談会で(相手は関曠野だったっけ)、プラトンがケルゼンが不死の法人が-、とか今にして思えば割と寝言いってて許されるイイ時代だったなあ、とか。本筋に戻るけど、憲法学が営業の自由まわりで大企業にばかり意識を持って行かれて来たのは、こういう背景も長らくあったのではないかな、とかも。 

 

● Voiceの中で憲法学は営業の自由で中小事業者とか全然考えて無くて、大企業ばかりに目を向けてるよねー、というのは、以上のような、これまでの歴史的経緯的には、やむをえないところもあり、先ほど触れた法人資本主義批判みたいなのは、その後も強い残響を残しており、経済的自由の追求=あられもない新自由主義的な方向への暴走!みたいなのが、憲法学者の多くのアタマの中にこびりついてるのもあるんだと思いますね。ま、結局は中小とかは眼中に無いんだけど。

● それにしても日本の文脈での法人資本主義批判で念頭に置かれていた法人(日本の大企業)の近年における凋落を見るにつけ、かつての議論、SF感さえありますね。

● あと蛇足だけど、もちろん違憲審査基準についての現在の議論が「比例原則」とかなのは重々、承知している。小山先生の本とか読んどけばイイんじゃないですかね、よう知らんけど。 

 

 

●  なお、本文中の「友人の学者」は、某K法学者・仮名G太郎先生(50)である。


www.youtube.com

 

 

2人の出郷者--永山則夫と菅義偉

 最近一部で話題の、放送大学ラジオ講座「人間にとって貧困とは何か」(西澤晃彦・神戸大)、「西澤先生の声が良すぎて異様な説得力が~」というやつなんだけど(井出明先生から教えていただきました)、第2回で取り上げられている見田宗介『まなざしの地獄』を研究室から発掘して久しぶりに読んでしまいました。

 久しぶりに読んで「あっ!!!」となったんだけど、この本(というか論文)の主人公である「N.N.」こと永山則夫、1949年に青森県板柳町出身(生まれは網走)。菅義偉も考えてみれば1年違いの1948年生まれの集団就職世代なんですよね・・・。かたや連続殺人犯・死刑囚(永山)、かたや現内閣総理大臣、同じように同じ時期に出郷して東京の風景を見ていたのか、と、しばし考え込んでしまいました。

 永山則夫が連続射殺事件を起こした瞬間って、スガちゃんの人生の中で段ボール工場を辞めてから法政に入るまでのわりと謎の期間なんですよね、ちょうど。当時の東京で漂っていた無名のスガ青年は、永山の事件を見て何を思ったんでしょう。あるいは『無知の涙』を読んだりしたのでしょうか。

 

 1968年の東京のどこかで、この2人、あるいはすれ違っていたのかもしれないなと思うと想像が膨らみます(北野武監督で映画化したら?)。

 

 ちなみに冒頭のラジオ講座、以下から聴けます。10月20日までの公開なので、あと数日ですが、どうぞ。異様な説得力のある声!冒頭の写経の話、笑います。

 

2020/10/13/火 19:30-20:15 | 人間にとって貧困とは何か第2回 | 放送大学 | radiko

radiko(ラジコ) | ラジオがインターネット(アプリやパソコン)で無料で聴ける

憲法記念日の奇習

 毎年恒例の「憲法記念日にコンビニで全紙を買って来て読んでみる」を今年もやってみました。

 下のほうに2019年と2018年の時の記録も参考までに付しておきますが、まさか今年の憲法記念日がこんなことになるとはね、という。2019年に書いたように、もうこの奇習もやめようかと思っていたのですが、コロナ禍のこんな時だからこそ、いつも同じことを意識的に継続しようということで、今年もやってみます。

 各紙、登場する識者をメモ代わりに記録してありますが、全体としてコロナ禍に呑み込まれてしまっている印象が強く、「憲法記念日だからということで惰性でやっている特集ですね」というのが総括的な感想ですかね。

 左派系の各紙はアタマから緊急事態条項については否定し、「公共の福祉」などで対応可能という論調ですが、この辺りのことを真面目に議論すべきではないか、と思いました。個人的には、数個の記事以外はほぼ読む意味が無かったです。

 なお、どうでもイイことですが、首都大・都立大の同僚・元同僚・OBが4人登場しております。

 

朝日新聞

緊急事態条項について曽我部真裕(京大・憲法)、世論調査について境家史郎(東大・政治学)、その他テレビ欄裏面に南野森(九大・憲法)、志田陽子(武蔵野美術大・憲法)。全体として、コロナ禍に乗じた改憲の動き(含む緊急事態条項)への牽制。「緊急事態条項、憎し!」ですか、そうですか、以外の感想は無し。

 

毎日新聞

百地章国士舘特任・憲法)と高見勝利(北大名誉教授・憲法)と左右のバランシング?その他、緊急事態条項の不要性について木村草太(都立大・憲法)。朝日と同じで内容が薄まっている下位互換。

 

東京新聞

紙面上、学者として登場するのは宇野重規(東大・政治学)のみ。しかもコロナ関係で憲法とは関係なし。やる気ない感じ。

 

【読売新聞】

上田健介(近畿大憲法)と笠原秀彦(慶応・皇室制度論)がメイン。各党座談会に学者としては1人だけ宍戸常寿(東大・憲法)が参加。全体として憲法論議の活性化の呼びかけ。憲法ではなくコロナ関係ではあるが、1面に御厨貴(東大名誉教授・政治学)。一番充実していたが、しかし、それでも今の時期に憲法問題を論じること、どうしても白けるよね、というのは拭えず。

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産経新聞

社説で緊急事態条項の必要性と力説するも、識者は一切登場せず。そもそも頁数が異様に少なく夕刊かと思ってしまった(大丈夫か?いや大丈夫じゃないんだけど・・・)。「息してる!?」以外の感想なし。

 

 今年も日経新聞は入手出来なかったのですが、まあ、そゆことで。

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2019年5月4日

 毎年恒例の憲法記念日に全紙買ってきて眺めてみる奇習を今年もやりましたが、全体としては、2015年の安保騒動の時を頂点に議論的には低調傾向の持続という印象でしょうか。

 それにしても、紙の新聞、ホントに毎年この日しか手に取ることがなく、古代文明の遺物みがあります。

 日経だけは近所のコンビニに行った時間が遅かったので売り切れてしまっており、電子版を講読している知人に内容を教えて貰ったのですが、朝日・読売・毎日・産経・東京を買いました。

 平成から令和への代替わりが直近だったこともあり、ここ数年では珍しく「天皇(制)」に関する言及が多かったのが、今年の一番の特徴でしょうか。あとは、2紙でAIへの言及があった(片山・山本)のも最近の潮流なのかな、とも。

 学者が顕名・写真つきで登場しているのは、朝日=井上達夫法哲学)・樋口陽一憲法)、読売=山元一(憲法)・君塚直隆(イギリス政治外交史)・棟居快行(憲法)。産経=百地章憲法)・渡辺利夫(久しぶりに見た!いちおう経済学?)。毎日=片山杜秀(政治思想史?)・佐々木弘通(憲法)。東京=長谷部恭男(憲法)vs. 萱野稔人(哲学?)、日経=青井未帆(憲法)、山本龍一(憲法)、江藤祥平(憲法)という感じでした。

 いちおう少なくとも上記の学者のやつだけは全て読んでみましたが、認知的利得がほぼゼロで、樋口陽一の記事は紙面の4分の3も使ってて巨大だな、というのと、井上達夫の話はこれまでと同じことを言っているので新味はないが、天皇の話は、ありきたりながらル=グインの「オメラスを立ち去る人びと」だよね、とか、読後に持った感想らしきものは、それくらいでした。

 この奇習も、そろそろ止め時かもしれません。

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2018年5月3日

 今日は憲法記念日なので、毎年恒例の全紙買って読んでみよう、をやってみました。朝日、読売、日経、毎日、東京、産経新聞の6紙。私は何年か前に紙の新聞を取るのをやめてしまったので、年に一回だけの紙の新聞を読む日で、ちょっと新鮮な気持ちも。

 まだきちんとは読んでいませんが、全体としてはやや議論が低調なのかな、という印象を受けました。一番頑張ってる?のは毎日かな、という感じも。

 写真つきで登場している学者は、京大の曽我部真裕さんが朝日と日経に出ていたのが目についた以外は、毎日の青井未帆、棟居快行、宮城大蔵×中島岳の対談、朝日の片山杜秀×林知更の対談、駒村圭吾、産経の田久保忠兵衛の各氏くらいで、ここ例年の常連?の姿が余り見えない感じもしました。林さんがこういう形で出てるのは、ちょっと驚きましたが。

第1回拾遺:面白うて、やがて神聖なる喜劇

 白水社サイトでの連載本体(元記事)は、こちら。

 今回のメインは、以下。 単行本版の刊行後の出来事についてもフォローして追記が行われており、また解説も素晴らしいので、単行本を既に持っているひとも是非。

黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い (集英社文庫)

黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い (集英社文庫)

 

  畠山の取材(生活)について。 

記者会見ゲリラ戦記 (扶桑社新書)

記者会見ゲリラ戦記 (扶桑社新書)

  • 作者:畠山 理仁
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: 新書
 

  冒頭に挙げた大西巨人の随筆が掲載されているもの。 

遼遠 1986‐1996 (大西巨人文選 4)

遼遠 1986‐1996 (大西巨人文選 4)

 

  言わずもがなの『神聖喜劇』(全5巻)。 繰り返し読むに値する傑作です。

神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)

神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)

  • 作者:大西 巨人
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 文庫
 

  漫画もある。 

神聖喜劇 第一巻 (幻冬舎単行本)

神聖喜劇 第一巻 (幻冬舎単行本)

 

 

 ウェブ上で読める畠山の書いたものとして、まずは昨年(2019年)の統一地方選中に日刊ゲンダイに連載された以下などを参照されたい。NHKから国民を守る党(N国党)について、まとまった形できちんと書かれた現時点では唯一のものではないかと思われる。

→ https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3685

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 現在連載続行中のものとしては、「よみタイ」で連載中の「アラフォーからの選挙漫遊記」(隔週・月9配信)。2020年1月24日時点で第5回目。


 なお、地方議会(議員)の現状について最も整理され興味深い議論を展開しているものとしては、以下を参照されたい。 

日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (中公新書)

日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (中公新書)

 

 

■ 公益財団法人・明るい選挙推進協会、提供データ
http://www.akaruisenkyo.or.jp/tokusetsu/2019touitsu/votingrate/

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 最後に少しだけ選挙にまつわる個人的な話を。わたし自身は、大分県別府市の出身であり、つまり以下のような来歴を持っている。

 子どもの頃から身近に選挙を見聞きし、成人以降、東京に出て来てからも多くの選挙に色々な形で関わって来たが、選挙がらみで唯一したことのないのが「立候補」である。私は自分のいまの仕事を「天職」だと思っているので、今後も被選挙権を行使することは恐らく無いだろうとは思うのだが・・・。

 なお、畠山の『黙殺』と深いところで通底するテーマの流れるものとして、以下の砂原によるものも、この際あらためてオススメしておく。

 

さしあたり今回は、以上。

第0回拾遺:Merentem laudare justitia est.

白水社サイトでの連載本体は、こちら

→ https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/3085

 

 ・・・というわけで「哲学者の朝の祈りはノンフィクションを読むことである」と題した連載を始めたわけだが、白水社サイトの連載本体にも記した通り、今後おおむね1ヶ月に1本くらを目安に書いてゆきたいと思う。

 ここでは、いちおう「ノンフィクション」を主たる対象とするつもりだが、適宜、それ以外の書籍も混ぜ込んでゆくことになるかと思う。連載中にいつか触れることになるだろうが、「何がノンフィクションなのか?」ということ自体が、ひとつの問題でもあるので。

 連載で言及される書籍については、メインの対象以外にも複数のものに触れる場合もあるので、白水社サイトの方での掲載作業の煩雑を避け、また、比較的自由な補足も行いやすいよう、毎回、こちらの個人ブログの方から書籍へのリンクなどを貼ることにしたい。

 なお、連載タイトルにしたヘーゲルの言葉については、既に本ブログの下記のエントリーで触れているので、参考までに。

taniguchi.hatenablog.com

世界史へ接続せよ/安田峰俊『八九六四』

  本書は今を遡ること29年前の今日、1989年の6月4日(八九六四)に起きた天安門事件をめぐるものである。

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか

 

 本の中でも描かれている通り、この日の前後には、スマホ決済で「六四」元や「八九六四」元の金額指定が不可能になるほどで、現在でも中国政府は躍起になって事件の痕跡を隠そうとしている。乗数(=8の2乗)が64になってしまうので「八八」元でもダメという話さえある・・・。習近平体制下での強力な統制の進展を見る限り、このような形での取材は以下の筆者の言葉にもある通り、本書が最後のものとなるかもしれない。

「本書の登場人物のうち、中国国内に住む人の大部分は、これら(中国の監視社会化)が本格的に進行する以前の2015年の夏ごろまでに取材を終えた、今後、同様の取材を行うのは困難だろう。この本は取材が成立し得るギリギリ最後の時期に、滑り込みセーフで書けたのである。」(299)

 ※ 以下、丸括弧内の数字は本書該当頁を示す。

 ちょうど去年の六四に以下のような投稿があったが、これが実情であり、今年、事態はさらに悪化しているかもしれない。

 

 何らかの形でこの事件と関わり合いを持つ六〇人以上のひとびとに対面取材した本書は、これまで出されたおびただしい数の天安門事件本とは大いに趣を異にするものである。

 著者はtwitterで本書について「意識低い系」の天安門本だと冗談めかして言っていたが、本書の中では、意識高く士大夫/知識人として祖国中国を思い天安門へと身を投じたというような話だけではない、余りにも人間臭い物語が織りなされてゆく。 

  彼らを描き出す筆致は、何事をも断罪することのない取材対象への細やかな愛情に満ちたものとなっている(これぞ安田ワールド)。あれから三〇年近くの時を経て、家族を持ち、或いは子どもを持った取材対象たちの心の機微には、ひととして感じ入らざるを得ないものがあるだろう、人生は複雑なのである。
 冒頭に記した「時の権力者による史実の隠蔽や改竄をよしとしない」ような《高い志》は、長い中国の歴史の中では繰り返し現れて来るモチーフで、滅びた南宋への忠義を貫き通し、侵略者・元のクビライからも才を惜しまれつつ刑死した文天祥の「正気の歌」などにその極致を見ることが出来るだろう。しかし、ひとが皆、文天祥になることはないのである。 

 

正気の歌 - Wikibooks

文天祥 - Wikipedia


 歴史の巨大なうねりに正対した時の、人間的--あまりにも人間的な物語たちが本書には横溢している。
 本書の副題は「天安門事件は再び起きるか」である。この先に待っているのが、命懸けで権力者の悪行を史書に記し遺そうとした「太史の簡」も「董狐の筆」も現れない完成したデジタル・レーニン主義による素晴らしき新世界なのか、あるいは歴代王朝に幕を引いてきた大盗賊たちによる農民起義なのか。黄昏どきに飛び立つフクロウのみが知るところである。

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Sebastian Heilmann, 2016, Leninism Upgraded: Xi Jinping's Authoritarian Innovations, China Economic Quarterly 20 (4), Dec. 2016, GavekalDragonomics, 15-22.[PDF]

 

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

 

 

  以上、『週刊現代』2018年6月4日号に掲載された拙書評に大幅な改変と拡充を施したものである。一般向けの週刊誌で書くワケにはゆかないアレな文飾をフルに施しており、発売中の該当誌の書評と読み比べると掲載限界線が分かって面白い(?)かもしれない。書評末尾は紙幅の関係上、《両極端な未来》にしか言及していないが、もちろん、そうでない、何らかの形で、中国にとっても日本を含む諸外国にとってもハッピーな未来もありうるだろうし、正味の話そうであってくれなければ困るのではあるが・・・。

 

 以下では、本書の備忘を断片的に記し留めておく。

 

● 「当時、北京の市民は直近の一〇〇年間だけでも、義和団事件辛亥革命・民国期の軍閥内戦・日中戦争国共内戦文化大革命--と、十数年に一度以上のペースで大規模な動乱を経験していた。」(69)→ 以下、年表?化。

1899~1901年:義和団事件
1911~1912年:辛亥革命
1927~1937年:民国期の軍閥内戦(第一次国共内戦
1931~1946年:日中戦争
1945~1949年:国共内戦
1966~1976年:文化大革命
1976年:第一次天安門事件
1989年:第二次天安門事件

● 1990年ごろ近所にできたばかりのKFCの話(75)→ 私もほぼ同じ時期に行ったので、本当に懐かしい。再開発前の王府井の店だった。

●「士庶の別」、「士大夫と一般庶民」(95)

● 1991年8月19日。ゴルバチョフ軟禁、市民の抵抗でクーデター失敗。ソ連共産党は事実上の解体。あんなに強かったソ連がボロボロになって、エリツィンみたいな酔っ払い野郎がトップになった。旧西ドイツ人はめちゃくちゃに見下されていた。だから天安門事件は仕方なかった(104-)

● 姜野飛(涙)、マー運転手・・・(147)
● ネットで真実を知る=「有思想(ヨウスーシャン)」(150)
● 「インテリが主導する革命は必ず失敗する」(185)
 秀才造反、三年不就
 戊戌変法、辛亥革命
 庶民のドロドロしたルサンチマン毛沢東=農民叛乱型の権力奪取だけが成功
● 凌静思「白鳥はかなしからずや空の青」(188)→ この仮名がまた・・・

●「いや待って。いま私があなたと喋っているのは普通話ではなく『台湾の国語』です。香港人と日本人が、中華圏の第三国の言葉でコミュニケーションを取っているだけ。お互いにこういう理解で手を打ちませんか。」(221)

 ●「左膠(ジョーガウ)」=サヨクのゴミ

●「自分の家の問題は解決できなかったが、よその家の問題を解決していた」(269)

 

 

 最後に個人的な話を。

 

 中学の時だったと思うが、わたしの通っていた学校(大分県)では英語合宿というものがあり、数日間そこで英語漬けにされるのだが、九州近県の大学から留学生が何人か「先生役」的に招聘され参加していた。そこに来ていた清華大学からの留学生(九大に来ていたと思う)と仲良くなり、その後も(英語で)文通をしていたのだが、八九六四に前後して彼との通信は途切れた。

 八九六四の時、テレビで北京の上空をヘリが飛び交い、大通りを戦車が隊列を組んで走るのを見ながら、わたしは彼のことを考えていた。八九六四はわたしにとっては自分自身が身近な感覚を伴って、初めて世界史に強制的に接続された瞬間だったのである。

  その後、1993年3月にわたしは初めて北京へ行き、天安門広場を訪れた。広場に行った日は、ちょうど八大元老の一人であった王震が死んだ翌日で、広場は厳戒態勢になっていた。広大な無人の広場に等間隔に警官(兵士だったかもしれない)が立つ光景を、今でもよく覚えている。

 

 

  

補記:上掲書を読んで、以下の本も思いだしたが、正直なところ、わたしは文天祥よりも馮道のほうに人間的魅力を感じる(以前、大屋雄裕さんが、この本を教えてくれた)。ただ、現代の中国にも、この馮道のような人物は居るのだろうか、もし居るとしたら今現在、何をしているのだろうかということも考えてしまうのではあるが。

馮道 - Wikipedia

馮道―乱世の宰相 (中公文庫)

馮道―乱世の宰相 (中公文庫)

 

 

補記2:上記アップ後、「ところで、馮道いますよ! そいつ、周恩来とか温家宝とか王岐山とか王滬寧とかいうんですけどね。」という悪いことを言ってきた友人が居たのであった・・・。

 

以上。

島田英明『歴史と永遠』

 わがゼミの卒業生でもある島田英明さんの単著『歴史と永遠 江戸後期の思想水脈』(岩波書店)をご恵贈頂きました。ひとりの教師として感無量です。

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 上記、「で“も”ある」と記した通り、日本政治思想史を専門とする島田さんの首都大での本籍は河野有理先生のゼミでありまして、その後、東京大学大学院法学政治学研究科で苅部直先生の薫陶を受け、このたび博士論文をもとにした本書の上梓に至られました。

 島田さんは私にとっても実に思い出深い卒業生のひとりで、在学中から飛び抜けて優れていたのを今でもよく覚えています(実際、極めて優等な成績で本学を卒業されました)。

 彼に関して、わたしが記憶しているエピソードは2つあり、1つは河野先生の講義のレポートで、出来が余りに良すぎるので剽窃ではないかとさえ疑われたものの、実際に自分で書いたものとすぐに分かったという話。

 それから、2つめは、私のゼミで当時、安藤馨さんの『統治と功利』を読んでいたところ、ゼミ合宿で安藤さんご本人をお呼びし、島田さんに『統治と功利』の報告をしてもらったら、あの安藤さんが「彼は本当に優れていてビックリですね」と激賞頂いたことでした。

 栴檀は双葉よりとか、出藍のなどと言うまでもなく、実に教師冥利に尽きる存在が、島田さんと今回のこの本でありまして、あとがきも読んで、学生時代の彼の知的世界の形成にいくばくかなりとも痕跡を残せたのが、後世、私の学者人生の中で最も大きな意義のあることだった、とならぬよう、わたし自身も奮起しなければならないな、と思った春の昼下がりでした。

 内容の詳細(目次など)は以下から見れますので、是非お手に取って頂ければ幸いです。

 島田さんは1987年生まれですから現時点で31歳なわけですが、この本のもととなった博士論文は、その20代最後の日々に書かれたものなわけで、弱冠30にもならないほどの人間が、このようなものを書けるのかと戦慄されたく。

https://www.iwanami.co.jp/book/b352575.html

 

※ 先ほど落掌したばかりなので、またゆっくりと読んでから内容についての感想なども追記したいと思います。