『性同一性障害の医療と法』

 『性同一性障害の医療と法』(メディカ出版)がポストに届いていた。特例法成立に尽力した南野知惠子・元法務大臣から執筆陣への感謝のお便りも付されており、一読、立法運動当時の色々なことが走馬燈のように頭の中を駆け巡った。

性同一性障害の医療と法: 医療・看護・法律・教育・行政関係者が知っておきたい課題と対応

性同一性障害の医療と法: 医療・看護・法律・教育・行政関係者が知っておきたい課題と対応

 私が書いてるのは第3章の2「性同一障害者と法」の中の「法哲学の観点から」の部分で、政治・法・哲学の3つの観点から特例法について触れている。「政治」のパートではアイデンティティ・ポリティックスとかエスニック・モデルの難点について。「法」のパートでは、司法による社会改革の意義と限界についてブラウン事件などに触れ、最後の「哲学」のパートではバトラーなどのポストモダニズ的言説への批判などを行っている。

 本文末尾にも記したように、政治というのは可能性のアートなのだが、あれこれ口で言うだけで結局何もしないのではなく、己を限定する勇気を持ってギリギリの選択を繰り返しながらも何かを成し遂げるということの重要さを噛み締めなければならない。

 法律関係者では、目次にもある通り、私以外は、法制定の際、参院法制局で尽力され慶應で立法学も講じられている川崎政司先生と、民法の棚村政行先生などが執筆されている。川崎先生とは、特例法のアレコレの後、学術会議の立法学関連でご一緒したりもしていたご縁。ガイドライン第4版を始め、資料も大変充実している。

 この性同一性障害特例法の制定には、わたし自身、強くコミットしていたこともあり、制定に至ってから早くも10年の歳月を経た今日、このような形で総括を行うことが出来たのは、まことに感慨深い。これに関わったことは、わたしの世界に対する考え方を今でも大きく規定している。私は世界を変えようとしていたのだが、私自身が変わってしまったのだ...(I tried to change the world, but finally I myself changed...)。