『ユリイカ』 特集:ゾンビ
『ユリイカ』ゾンビ特集号の全体にやっと目を通したので、以下、簡単に印象に残ったことなどメモを兼ねて。
私は「フィロソフィア・アポカリプシス--ゾンビ襲来の法哲学」という小文を寄稿している。中身は法哲学(正義論)の観点からのゾンビ談義。自然状態、ノージック、ホッブズ、ロック、ルソー、ロールズ、アイン・ランド、アレントなどが、ちょこっとずつ登場。ゾンビ襲来に法哲学はどう対処する?という話から、アメリカ政治におけるゾンビと共和党/民主党の相性に関する統計的分析まで短い中に色々と。それはさておき、以下、個別論文の感想。
[ゾ1]個人的に一番面白かったのは、岡室美奈子「ゾンビと「はけん」」。宮藤官九郎の新作歌舞伎『大江戸りびんぐでっど』に関するもの。この作品、歌舞伎ファンには、とかく微妙な評価なのだが、シネマ歌舞伎で観た時には個人的には面白かったので、そこら辺のギャップを綺麗に埋めてくれる評論。ブレヒトの『三文オペラ』を用いた議論の運びには「なるほど」という感じ。最後の〆も勘三郎葬儀での野田秀樹の言葉で、中々ぐっと来た。以下、参照
どうか、どうか安らかなんかに眠ってくれるな。この世のどこかをせかせかと、まだうろうろしていてくれ。
[ゾ2]中田健太郎「怖がったのはだれの心」はボードレールの詩「群衆」を引いた部分が面白かった。『パリの憂愁』の中に入ってる「群衆浴」についての詩だけど、なるほど、こういう読み方があるのかと。
[ゾ3]橋下一径「ゾンビの/と同一性」は、冒頭「ゾンビ vs. ミッキーマウス」から始まる。「ミッキーマウスにとっての最大のライバルとは、ミッフィーでもキティでもなく、ゾンビである」の下りに噴き出す。大阪USJでは結構ゾンビ・イベントやってるみたいだけど、その線で浦安TDLに対抗?
[ゾ4]福嶋亮大「西洋のゾンビ、東洋の幽霊」。執筆者のご専門からしてキョンシー(疆屍)に触れるのかと思っていたが、これはこれで面白い。「西洋のゾンビが人間の終わり(=廃棄物としての生)を指し示すのに対して、東洋の幽霊は逆に人間的欲望を純化するものとして現れる」。なるほど。『ゾンビ襲来』の解説の中で、ちょっとだけ触れたけど、『東海道四谷怪談』のお岩とかは、この図式ではどうなるんだろう、とか。四谷怪談の話は忠臣蔵とか荻生徂徠と絡めて色々面白い話が出来ると思うんだけど、それはまた別の機会に別のところで。
他にも色々あったのだが、なんせ執筆者・分量ともに多いので、取りあえずのメモとしては、こんなトコで。