公民権運動の長い隊列 (Obergefell v. Hodges)

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(上写真は、http://u111u.info/m4xF より)

 講義でも毎年、Bowers v. Hardwick, 478 U.S. 186 (1986) から始まり、Lawrence v. Texas、539 U.S. 558 (2003) に至るまでの歴史を話しているので、以下、講義ノートの改訂のための備忘も兼ねてメモ。適宜、内容を補充し、その都度、tweet などで告知することとしたい。

 

 アメリカ合衆国連邦最高裁判所は2015年6月26日、同性婚を禁止した州法を合衆国憲法修正第14条に基づき違憲とする判決を言い渡した。公民権運動の長い隊列に連なる歴史に新たな1頁が加わった。

 判決に関する詳しめの分析は以下の記事が参考になる。

  http://www.nytimes.com/interactive/2015/us/2014-term-supreme-court-decision-same-sex-marriage.html

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 歴史的判決であるが、結果は5対4の僅差で、判断は「(違憲)Kennedy, Sotomayor, Ginsberg, Kagan, Breyer」対「(合憲)Roberts, Alito, Scalia, Thomas」。

 合衆国最高裁の現在の構成(リベラル4、保守4、中間1)等は以下が分かりやすい。「5.6 現在の構成」の項目を参照。

 合衆国最高裁判所 - Wikipedia

 この判決を歓迎するリベラル側の反応は至るところで目にすることが出来るだろうから、保守派(共和党側)の反応に関する興味深い記事を以下にリンクしておく。New Republic 誌の記事で、タイトルは「同性婚と共和党の安堵の溜息(Gay Marriage and the GOP Sigh of Relief)」。 

www.newrepublic.com

 余談だが、GOPは Grand Old Party の略で共和党の別称。ロゴマークにもなっている。右下の小さなアイコンは共和党のシンボルの「象」(民主党は「ロバ」)。

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 追記:この記事の方が更に分かりやすいかも>保守派の安堵。

www.washingtonpost.com

 要するに同性婚をめぐる政治闘争には、とっくの昔に決着がついていて、共和党支持者でも若者とかは同性婚に対して寛容だし、共和党が激戦区を勝ち抜くために同性婚に対して明確な態度(反対)を採れば採るほど、政治思想上のポジションが中道から大きく外れる事態になっていたということ。コアな保守層にイイとこ見せるために無理くり闘ってきたのだが、これでやっと同性婚反対と言い続けるのをやめられて、ほっとしたという話。政治の妙を感じる話である。

 

 今回の判決(Obergefell v. Hodges, 576 U.S. ___ (2015))に関しては、現在進行形で編集中だが、以下に情報がまとまっている。下記、合衆国連最高裁のエンブレムの下の方に「Announcement Opinion announcement」というPDFファイルへのリンクがあるが、ここにシラバスが載っており、それを読むと判決の要点が分かる。

 Obergefell v. Hodges - Wikipedia, the free encyclopedia

 結果は歓迎すべきものだと考えるが、Kennedy の Majority Opinion で示された「結婚を神聖なものとして絶賛する」という趣旨の判決文の下りには若干の違和感(剥き出しのモラリズムのようなもの)を感じざるを得なかった。 

No union is more profound than marriage, for it embodies the highest ideals of love, fidelity, devotion, sacrifice, and family. In forming a marital union, two people become something greater than once they were.---Justice Anthony Kennedy

 その後、上記に関しては以下のような卓見があり、なるほどと思ったが、しかし、法の生命線は道徳との分離なので、たとえ方便だとしても危うい綱渡りだよね、と思うなど。

  とはいうものの、初めて読んだ時には怒りさえおぼえたBowers v. Hardwickからおよそ30年、ストーンウォール叛乱(1969)から数えるなら実に46年。ようやくここまで来た、という感慨は拭い得ない。

 ホワイトハウスの公式tweetで下のようなものを見た時には、思わず涙が出てしまい、アタマの中に Beatles の All you need is love. が鳴り響いた。下のYoutube流しながら、ホワイトハウスのgif画像みてみるとイイ・・・。


Love Is All You Need - Beatles

 

  赤は共和党のカラーで、青は民主党のそれなのだが・・・

 

 なお、これまでの経緯に関して、日本語で読めるコンパクトなものとして、宍戸常寿「合衆国最高裁同性婚判決について」法学教室 2013年9月号(No.396)。

 法学教室 2013年9月号(No.396) | 有斐閣

 以下の事柄について触れていたと記憶している。2年前の「結婚防衛法(DOMA)」に対する連邦最高裁からの違憲判決に関する記事で、奇しくも今回の判決と同じ日付である(6月26日)。

newsphere.jp

 

 

 Bowers事件などに関しては、小泉良幸『リベラルな共同体』(勁草書房、2002年)、特にその第1部によくまとまっていた記憶がある。 

リベラルな共同体―ドゥオーキンの政治・道徳理論

リベラルな共同体―ドゥオーキンの政治・道徳理論

 

 

  最後に、惜しくも2001年に44歳の若さで早逝したノンフィクション作家・井田真木子による『もうひとつの青春―同性愛者たち』(文春文庫、1997年)も、この際、思い出されても良いのでないだろうか。

 極めて優れたノンフィクションであり、その中では、所謂「府中青年の家事件」についても触れられている。

もうひとつの青春―同性愛者たち (文春文庫)

もうひとつの青春―同性愛者たち (文春文庫)

 

  以下の引用にも見られる通り、ここには一筋縄では行かない歴史があり、それもまた現在進行形で存在している。

サンフランシスコのカストロストリートは、たしかに異性愛者に拮抗して同性愛者の権利平等を勝ち取った街だったが、それは、同性愛者の中での平等を意味しなかった。あえて言えば、それは白い肌を持つ共和党支持の男性の同性愛者にとっての平等だ。そのほかの人々は、彼らが築くヒエラルキーの下部に配置された。ヒエラルキーの下層はアジア系が占め、また女性はつねに男性の下に位置された。すなわち、アジア系のレズビアンが最下層である。頂点に立つ白人同性愛者の男性は、香港あるいはフィリピンの移民のレズビアンが、どれほど貧困に苦しもうが、街路でレズビアン嫌いの男に殴られようが、ともに闘う姿勢はまず見せない。寧ろ、自分たちの富の蓄積に忙殺されている。また、ベトナムやタイの男性同性愛者に関しては権利などには無知なかわいい“坊や”であってほしいと思う一方で、自分たちが異性愛者から二等市民扱いされることには憤激する。[井田(1997): 85-86]。

  この先にも未だ、遙かに長い道が続いている。

 

  なお、 公民権運動(人種)については既にまとまったエントリーをアップしてあるので、そちらも参照されたい。 

taniguchi.hatenablog.com