2つのアメリカ

 以下、いつも講義の中で紹介するアメリカがらみの映画についてのまとめ。

  先ずは、毎週金曜23:30からMXで放送されている「町山×中島の未公開映画を観るTV」で紹介されていたので知った『ジーザス・キャンプ』。

 アメリカに数千万人存在すると言われるキリスト教原理主義の人びとを描いたもので、観ると真に唖然とする。原理主義の親を持つ子どもたちを集めたキャンプの様子とかを描いてんだけど、ハリー・ポッター(魔法使い)は「神の敵」なので殺さないとイケマセンね!(ニコリ)みたいなことを言って、子どもたちを凍り付かせ、しかる後に洗脳したりしている。当のアメリカ人たちも、原理主義者たちの実態が、ここまでキテいるとは知らなかったようで、この映画がCNNだかで紹介されると、大騒ぎになっていた。

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 我々が普通「アメリカ」と聞いて思い浮かべているのは、基本的に上記色分けした地図の青い部分(United States of Canada)であるが、『ジーザス・キャンプ』のような人びとが大量に棲息する赤い部分(Jususland)の方が、実はアメリカらしい土地でもあったりする。蛇足だが、下記の地図は、2012年の大統領選(オバマ vs. ロムニー)でどの地域が民主党/共和党支持なのかを示したものである。上記地図との関係については、多言を要すまい(通常、共和党/民主党の政党カラーは、それぞれ赤と青と決まっている)。

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 さらにダメ押しだが、以下の地図は、ヘイトスピーチ的内容(人種差別や同性愛差別)を含む tweet のアメリカ国内での分布を示している(参照:http://www.huffingtonpost.com/2013/05/13/twitter-hate-speech_n_3265916.html

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参考:

tocana.jp

 さらにさらにダメ押しだが、以下は全米各州の幸福度の測定。数字が大きいほど(明色になるほど)、幸福度が高いとのこと。バイブル・ベルトのあたりが不幸で、西海岸の方がハッピーなようだ。ニューヨークとかマサチュセッツは、まあまあのようだ。(http://www.huffingtonpost.com/2013/08/02/happiest-states-_n_3696160.html?utm_hp_ref=mostpopular

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 ちなみにバイブル・ベルトは、だいたい以下のような感じ。

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 ふと思い出したのだが、アメリカの下院議員の選挙の際などに、候補者のサイトを見たりすると、パスポートを持っていないことをウリにしている候補が居たりする。要は海外旅行したことが無いと威張っているのだが、地元に生まれて地元に育ち、地元にしか関心ないzeeee!というのが、イケてるのである。(移民以外の)アメリカ人に(英語以外の)外国語が出来ない人が多いわけである。

アメリカの反知性主義

アメリカの反知性主義

アメリカとは何か (平凡社ライブラリー (89))

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 この外国(語)嫌いとも関連するかもしれないが、アメリカに深く根付いた伝統の一つに「反知性主義(Anti-Intellectualism)」というのがある。要するに本とか読んでる人間は信用出来ねえな、ということ。これについては、ホフスタッターの歴史的名著『アメリカの反知性主義』を参照。あと、日本語で書かれたものとして、斉藤眞先生の名著『アメリカとは何か』の中にも反知性主義に関する大変興味深い章がある。

バーシティ・ブルース [DVD]

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 反知性主義的な彼らが信奉するのは、マッチョなスポーツ文化である。基本、ハイスクールでのスクール・カーストの最上位は、アメフト選手とチアガールで絶対的に固定されている。映画『バーシティ・ブルース(Varsity Blues)』とかを観ればよく分かる。『桐島、部活やめるってよ』どころの話ではないのだ。

Revenge of the Nerd

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 それ以外の、特に本をたくさん読むような輩(ヲタ=geek、nerd)とかは人間ではない。日本におけるヲタなどとは比較にならない程の迫害を受けているのだ。彼らは、だいたい「赤い土地」を捨て「青い土地」へと逃れて行く。『ナーズの逆襲』という映画もあったり。この中ではヲタが、アメフト選手やチアガールへ復讐を敢行する。(http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=16410

 なお、アメリカにおけるスクールカーストは以下の通りである。

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 アメリカのスクールカーストまとめ - NAVER まとめ

 上記、Wikipediaに詳細な項目が立てられているのを発見し、困惑・・・汗

 ジョック - Wikipedia

 

 アメリカ映画の中で描き出される猟奇犯罪者の多くが、犯行に際してやたらに「古典」を引用したりするのも、これが原因なのかもしれない。抑圧の噴出というか。例えば、ブラピ主演『セブン』とか。キリスト教の「7つの大罪」をモチーフに次々と殺人が行われ、挙げ句の果てにダンテ・アリギエッリまで登場する。リアル犯罪者だけど、連続爆弾魔・ユナボマーことテッド・カジンスキーもマッドな天才(隠遁のち爆弾魔)だったしね。

ユナボマー 爆弾魔の狂気―FBI史上最長十八年間、全米を恐怖に陥れた男

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 以上、アメリカって奥深いね、という話でした。