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驚天動地の逃亡活劇--顔伯鈞著・安田峰俊編訳『「暗黒・中国」からの脱出』

書評

 昨日、読み終わった安田峰俊編訳『「暗黒・中国」からの脱出』について、以下。この本、安田さんの「編訳」になってるけど、もともとの原稿は顔伯釣という中国の民主化運動をしている人から、書き溜めていた30万字を超える分量の原稿を安田さんが託され、その内容を編集しつつ翻訳したという体裁のもの( 30万字そのまま本にしちゃったら新書だと6冊くらいになっちゃうから汗)。

  著者の顔氏は、北京の中央党校を出たエリートで大学教授をしていたのだけれども、民主化運動(実のところ、かなりマイルドなもの)をしていたところ、当局から目をつけられ、中国全土をまさに三国志水滸伝さながらに逃げ回るという話。冒頭、本当に偶然、安田さんが、この顔さんをひとに紹介されてから、いきなり彼の逃亡記の原稿を託されるまでの超展開に、読者はまずひっくり返ります。

 冒頭で安田さん自身、「率直に言って、中国の民主化運動への関心はあまりなかった」と正直に書いており、わたしも実はそうだったんだけど、この本は、民主化運動云々というコトとはともかくとして、一つの物語としてホントにぶっ飛んでいます。

 もともとの顔氏の原稿のタイトルは「天子門生逃亡記」なんだけど、これは中央党校が本当にエリート養成機関で、その歴代の校長がその後の国家主席とかだから(習近平も校長してた)。つまり、往時の皇帝の殿試に臨んだ科挙エリートに模して、自らの逃亡を描いてるわけ。

 逃走経路がもう本当にアレで、先ず北京を脱出した後、中国の地下キリスト教会のネットワーク、回族イスラム)の協力者、元ネオナチのニートのあんちゃんトコ、雲南少数民族、そしてミャンマー国境に蟠踞する元紅衛兵軍閥将軍、チベットの山越え、そしてタイ・・・と読んでて、めまいがします。何なのコレ、いったい?汗

 国保局(公安部国内安全保衛局)員が著者を捕縛するために講義をしている大学の教室にやって来て最前列に座り威嚇するんだけど、彼らを前に滔々と講義を行い、あまつさえ内容を納得させてしまう話、とても好きです。

 『独裁者の教養』の中でも触れられていたと思うんだけど、ミャンマーとの国境地帯に勢力圏を持つ、元紅衛兵軍閥の話は本当に面白いですね。この辺りの話、本当にもうメチャクチャで意味不明なんだけど、中央党校出てるから毛沢東のこととかも詳しいわけで、その知識が役立って現役熱烈毛沢東主義軍閥将軍と話が盛り上がるところとか、本当に好き。 

独裁者の教養 (星海社新書)

独裁者の教養 (星海社新書)

 

  しかし、中国で民主化運動やるのとか本当に死ぬほど根性がないと出来ないし、みんな恐ろしいほど腹が据わっているなと驚愕した。あと、熱い!暑苦しすぎる・・・。実は私は劉暁波の書いたモノとかも結構好きでぽつぽつ読んでるんだけど、『現代中国知識人批判』とかは本当に名文なのでオススメです。超勢いがある文章です。読んでて変な元気が出て来ます。 

現代中国知識人批判

現代中国知識人批判

 

  読んでのお楽しみだけど、今回の顔・安田本、ラストで物語りの冒頭へと視点が入れ替わって往還するところでは、思わず「おおおおぉぉ」と叫んでしまいました。

 というワケで顔 伯鈞 (著), 安田 峰俊 (翻訳)『顔「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』 (文春新書 1083) 、とにかく黙って買って読め本です。

 

 なお、安田さんの他の本については、以下の過去のエントリーなどもご参照。最近、文庫版が出た『和僑』の巻末解説は私が書かせて頂いていますので、そちらも良かったどうぞです。

taniguchi.hatenablog.com