「好戦的」な10代女性と「平和主義」の60代男性?

 『AERA』2016年5月16日号で【大特集:あなたは憲法が好きですか?】という特集をしており、ちょっと気になる記事があったので買ってみたのだが、最初にお目当てだった記事よりも興味深い記事があったので、講義資料のメモを兼ねて以下に記しておく。 

AERA(アエラ) 2016年 5/16 号 [雑誌]

AERA(アエラ) 2016年 5/16 号 [雑誌]

 

  本エントリーのタイトルは少し煽り気味でスイマセンなのだが、初読の際に印象に残ったのは、まさにコレだったのだ。

 本当は掲載されている男女の世代別のデータも含んだグラフ全体を載せたいところなのだが、さすがに悪いので、以下、概要をかいつまんで。なお、本記事は、国民投票住民投票情報室の今井一氏によるもの。氏は以下のような本も出されているので、参考までに。 

  記事は「自衛戦争自衛隊認めますか?」というタイトルのもので、11都府県700人への対面調査を行っているが、この結果が、とても面白い。以下2つの設問に対するアンケート結果。(但し、実際の誌面を見て貰えば分かるのだが、いずれの設問も、実際のアンケートで使用されたものは、もう少し詳細なものになっていることを注記しておく)。

 

※ 以下、数字は全て「%」表示。 

 

設問1.「戦力としての自衛隊を認める?」
[以下、認める/認めない]
[全体] 66.5 /33.5
[男性] 77.9/22.1
[女性] 55.0/45.0

 

 男女でクッキリ差が出ている。年齢別で見ると更に面白くて、設問1に「認める」と回答したのが最も多かったのは[男性20代]で、92.6。女性はほぼ全世代にわたって軒並み「認める」が50を大きく割り込んでいる。

 しかし、[女性10代]だけが突出してその傾向から逸脱しており、71.7が「認める」となっている。これは何故なんだろうか?

 全体として見た場合の大きな傾向性としては、男女を問わず、高齢者(60歳以上)になるほど「認めない」傾向が強い

 

設問2.「自衛のための戦争を認める?」
[以下、認める/認めない]
[全体]53.6/46.4
[男性]65.3/34.7
[女性]41.8/46.4

 

 またもや男女差がクッキリ。先ず女性に関しては、[女性40代]が「認めない」で突出しており66.7。最も「認める」のは[女性30代]で51.9。コレは本当に不思議。

 [男性20~40代]が軒並み「認める」の割合が高く、76~80となっているが、[男性50代]から56.3とガクンと落ち込み、[男性60代]になると男性内で最低の42.9まで落ち込むしかし、[男性70代]になると再び「認める」が55.6まで回復。

 

● この[男性60代]というのは、とても興味深いのだが、以下などを読めば何か分かるのだろうか?(未読)メモ代わりに。 

  

 今回は n=700 だったワケだが、これがもっと大規模に行われたらどうなるのか実に興味深いと思ったし、また憲法記念日の新聞などでも、こういう客観的なデータをもっと載せて、議論の土台を作るように努めて欲しいと思った。--以下はこの調査結果を見て思ったことなどを羅列的に。

 

自衛隊を戦力として「認める」けど、自衛戦争は「認めない」”という人は、[全体]で12.9、[男性]で12.6、[女性]で13.2いるということになる。

 ● 自衛戦争を「認めない」ってのは、何なんだろう?「非暴力不服従」?「絶対的平和主義」?・・・本当に、そんなコトを考えているのだろうか。「戦争」という言葉に脊髄反射してるだけでは、という疑いを持った。

●  上記の「非暴力不服従」や「絶対的平和主義」の立場は、「殺されても殺さない」といった凄まじく高い道徳的要請を内包するものであり、仮に先の12.9の人びとがそれを真摯に信じていたとしても、それ以外の80を越える人びとにもそういう考え方を押しつけるのは無理ではないだろうか(実際わたしはお断りである)。

● これら2つの立場が9条の解釈として「無理である」というのは、修正主義的護憲派の代表的論者である長谷部恭男も認めている。以下に、とても分かりやすく書いてあるので参照されたい。 

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

 

● 余談ではあるが、私は上記の長谷部本を使って10年近く一年生向けの基礎ゼミをしてきたが、年を追うごとに「改憲」の立場を採る学生は増えて来ており、彼らの話を聞く限りでは別段「右翼」とか、そういうワケでは毛頭なく、自然体でそう思っているのを目にしている。

 ● また、上記の12.9%の人びとは、「自衛隊は戦力である。しかして、自衛戦争はダメだ。」という立場なのだが、これは一体どういう立場なのだろうか?「自衛隊はどうすれば良いのか」という観点からするなら〈壮大な欺瞞〉か、あるいは本当に〈何も考えていない〉かの二択なのでは?(コレが「在日米軍に完全にお任せ」ということを含意しているのなら、欺瞞もココに極まれりという感想しかない)

● 以上の点からするなら、ある種の解釈の歪みが自衛隊員へのしわ寄せとなっているのではないだろうか?ここ最近の議論を見ていて私が最も気になる点の一つはコレである。

 ● この点については、書き出すとキリがないので、最近出た下記の本を是非読んで欲しい。『兵士を見よ』以来の杉山隆男による「兵士」シリーズに匹敵する名著だと思う。 

自衛隊のリアル

自衛隊のリアル

 

 

・・・と、ココまで書いたところで非常に詳細なデータなども含むエントリーが冒頭に紹介した国民投票住民投票情報室のサイトに上がっているのを発見して脱力した(汗。以下、参照。

 

「自衛戦争」と「(戦力としての)自衛隊」に関する世論調査 | [国民投票/住民投票]情報室 ホームページ

 

  色々な思考を触発する、とても良い内容なので、上記、是非ゆっくりと、どうぞ。

 

【追記】最初にも書いた通り、タイトルが煽り気味なので、念のため正確なデータを付記しておくと、以下の通り。

[10代女性]

 戦力としての自衛隊を認める=71.7(女性内で最高)

 自衛のための戦争を認める=42.6(女性内で3位)

[60代男性]

 戦力としての自衛隊を認める=64.9(男性内で最低)

 自衛のための戦争を認める=42.9(男性内で最低)