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中島恵『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』--単純な日本自賛本にあらず

書評

 中公新書ラクレの中島恵『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』読了。 

  副題も「「ニッポン大好き」の秘密を解く」と、やや煽り気味なのだが、中身はタイトルなどに反して、いっそ清々しいと言っても良い内容だった(最近流行りの自国日本の贔屓の引き倒し本では、毛頭ない)。

 本書で焦点化されているのは「日本への憧れ云々」という話よりは、むしろ《或る種の》普通の中国人の等身大の姿と、日本の我々の暮らしと比して想像しにくい、彼らの中国での生活の困難さである。
 ここで《或る種の》と限定を付したのは、この本の中で登場する中国人の恐らくほとんどが以下に記す「都市戸籍」を持っていたり、或いは、筆者と接触するような環境(ex. 日本への留学経験 etc.)にいる点で、必ずしも「平均的」もしくは「中央値」の中国人像ではないだろうからなのだが、これは本書の価値を損なうものではない。
 個人的に最も興味深かった点は、「農村戸籍」と「都市戸籍」について考える際、後者は更に「団体戸籍」と「個人戸籍」に分類されるという点だった。これに関しては、中国人の友人から以前聞いて今ひとつ正確に理解出来ていなかったのが、完全に理解出来、大変スッキリした。
 詳細は本書を読むに如かずなのだが、「団体戸籍」は、1)学校集体戸籍、2)駐在員事務所集体戸籍、3)勤務先集体戸籍に分かれているとのこと。私が友人から聞いて「???」となっていたのは、この中の「学校集体戸籍」だったのだな、と。
 あと読んでいて驚いたのは、京セラの稲盛和夫が中国人経営者の間では教祖的存在として祭りあげられており、中国の大書店に行くと彼の本が山のように積まれているという話。アリババの創業者であるジャック・マー(馬雲)も稲盛の信奉者であるというのは実に驚きである。稲盛に関しては次のような記述がある。

彼の経営哲学には中国の古典に由来するものが多く、中国人にも親しみが持てるうえ、中国人よりも深く古典を理解していることが尊敬の念を集めている。[155頁]

 ・・・とするなら、渋沢栄一とか安岡正篤なども、現代中国のイケイケのビジネスマンに受け入れられる素地があるということだろうか?!事の是非はともかくとして、興味深い。

 冒頭でも述べた通り、やや扇情的?なタイトルとは全く裏腹に、本書の筆致は淡々としつつも品位の感じられるもので、昨今、書店の棚を賑わせる嫌中・反中本などとは一線を画した大変良心的な佳品である。わたし自身、読みながら何度か(爽やかな)感慨を催す部分があった。
 以前、反日デモが燃えさかった頃に出た『在中日本人108人の それでも私たちが中国に住む理由』(CCCメディアハウス)を読んだ際に感じたのと同じような好感を持った。

在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由

在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由

 

  本書を読めば、新聞や週刊誌などで目にし、もはや飽き飽きしつつある紋切り型的な中国(人)像から一歩、適切な距離を置くことが出来るだろう。すぐに読み終えられ、読後爽快なので、ちょっとした時間に、是非どうぞ。

 

追記:本エントリーをアップした後に、本書著者による戸籍に関する文章がアップされていたので、以下を参照されたい。

toyokeizai.net