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傑作。黙って買って読め--安田峰俊『境界の民』

 安田峰俊『境界の民』、読了。掛け値無しの傑作である。繰り返し言うけど、すぐAmazonでポチるか本屋に走った方がイイ。これ読まないのは生きてるの損してるくらい勿体ないから。 

境界の民  難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々

境界の民 難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々

 

  繰り返し言ってるコトだが、「社会科学者の朝の祈りはノンフィクションを読むこと」。こういう素晴らしいノンフィクションを読まない奴は、即刻、社会科学者を廃業すべきである。

 著者は、1982年生まれで、私とちょうど一回り下の世代だが、この世代から、このような傑作が生まれるとは、自分も歳を取ったと思った。甲子園で球投げたり打ったりしているニイちゃん達がいつの間にか年下みたいな。

 著者の作品は『和僑--農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』から読んでいる。『和僑』は、冒頭の雲南省在住の2ちゃんVipperの話で引き込まれた。(これも、めちゃくちゃ面白いから黙って買って読め)。 

和僑    農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人

和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人

 

  私も1990年代前半、雲南界隈(昆明・大理・麗江)をブラブラしていた。当時は人民元(RMB)と外幣(FEC)が存在し、上海外灘の和平飯店前とかで換銭すると、「ウイグル・マジック」に引っ掛かったりしていたのを懐かしく思い出す。

 本書の中でも出て来るウイグル人だが、わたしのウイグル人にまつわる記憶は、上記の違法両替の際のエピソードと、当時、上海でバスに乗ってる時、ウイグル人の集団が喧嘩を始めて、バスの中でダイナミックにドロップキックをカマしていたことだ。当時のバス賃(トロリーバスだったよな)、5毛くらいだったと思うが、今の中国の物価からは考えられんな。

閑話休題。

 『境界の民』、研究室に忘れて来たので、以下は記憶に頼って記すが、「いちょう団地」について触れている冒頭の章で、いきなりヤラれた。この多国籍団地については、以前NHKの番組でも触れられていて、ずっと関心を持っていたのだが、ここまできちんと取材したものが出るとは、と。

www.nhk.or.jp

【人種のるつぼ】神奈川の多国籍団地「県営いちょう団地」でインドシナ一周気分を味わってきた Byクーロン黒沢 | ロケットニュース24

 昨年のゼミで扱ったテキストの中でも「無国籍者」の話が出て来てたんだけど、ここまでリアルに描き出しているのは、素晴らしいと思った。あと、これは本書全編にわたって通底していることなのだが、筆者の姿勢が素晴らしい。マイノリティに関わる人間は、往々にして或る種の醜悪さをさらけ出すのだが、そういうのが全く無く、非常に謙抑的。感銘さえ受けた。

 本書でこの他に扱われるのは、ウイグル人と日本の支援団体の闇、中国軍閥の子孫と歌舞伎町、日本人を麻痺させる台湾の甘い罠、とか色々なのだが、これらについては、ここに書くと、読む楽しみが削がれるので、ぜひ実際に読んでみて欲しい。事実は小説より奇なりを地で行っている。

 法哲学や政治哲学で、「多文化主義(multiculturalism)」とか「アイデンティティの政治(Identity Politics)」とか「差異の政治(politics of difference)」とかあるけど、Iris Marion Young とかみたいな凡庸なもん読む暇があったら、黙ってこの本を百回読め、なのである。

 繰り返しになるが、とにかく黙って読めで、「面白くなかったら俺がカネ払ってやってもイイわ」くらい面白い。次回作に更に期待したい。

 以上、テキトーな記憶に頼って書いているので、本を持って帰ったら少し書き直すかも。