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行政代執行と 『ぼくの村の話』

書評

 Facebookを見ていたら、友人の行政法学者が「行政代執行」の実例を知ってもらうため、学生さんたちに「橋下知事・行政代執行でイモ畑を撤去/2008年」という動画(YouTube)を見て貰ったという話を書いていたのだが、行政代執行にまつわる形で私がすぐに想起するのは、尾瀬あきらの漫画『ぼくの村の話』(全7巻)である。成田空港に行くたびに、わたしの脳裏には、この漫画のことが浮かぶ。 

ぼくの村の話(5)

ぼくの村の話(5)

 

  尾瀬のものとしてはこちら『夏子の酒』(94年に和久井映見主演でドラマ化)の方が知名度があると思うのだが、『夏子』の連載終了後、1992年春から1993年末にかけて同誌で連載されたものであるところ、『夏子』ほどはヒットしなかったので、知らない人も多いかもしれない。

 わたし自身も、連載時(大学2年生くらいの時か)には読んでおらず、その後、呉智英が『ダヴィンチ』だかでやっていた漫画批評の連載で、その存在を知った。確か、この時の連載は、1998年刊の『マンガ狂につける薬』に収録されていたかと思う。 

マンガ狂につける薬 (ダ・ヴィンチブックス)

マンガ狂につける薬 (ダ・ヴィンチブックス)

 

  内容は『ぼくの村の話』という和やかなタイトルからは想像もつかないもので、いわゆる「三里塚闘争」を、現地の村に住む少年の視点から描き出したものである。この漫画は、「行政代執行」も重要な場面として登場するのだが、政治や社会運動に関して、実に味わい深い洞察を与えてくれるものであり、未読の方には是非、手に取って読むことをお薦めしたい。

 作中では、空港建設予定地となった村での行政代執行とそれに対する村人たちの凄まじい抵抗の場面が描き出されているのだが、最も深く私の記憶に残ったのは、当時、三里塚に入って来た学生運動家たちと村人との間に芽生えた交流と断絶へと至る過程への描写で、いつの時代にも同じことが繰り返されているのだなと、ある種、暗澹たる想いをもって頁を捲ったのを記憶している。


29 - 三里塚 成田闘争 行政代執行 東峰十字路事件 - 1971 - YouTube

 小林よしのりが最も輝いていた頃、『SPA!』での連載「ゴーマニズム宣言」などから薬害エイズ問題をめぐって巻き起こした社会運動の成功とその顛末なども、先述の『ぼくの村の話』の中のエピソードと似たようなところがあるかもしれない。この点に関しては Wikipediaゴーマニズム宣言」の項の「薬害エイズ問題を巡って」の部分に簡単な経緯が記されているので、興味のある方は、そちらを参照されたい。

 

 閑話休題。この『ぼくの村の話』については個人的な思い出もあって、数年前、調布の或るスナックで独りで呑んでいたところ、隣に座った年輩の男性から話しかけられた時のことが思い出される。

 男性は、現在はタクシー運転士をしているのだが、かつては警官をしていたとのことで、よくよく話を聞くと、調布(上石原)の第七機動隊に居たというのである。かなり酒が入っていたのではあるが、しばらく話を継いでから、おもむろに三里塚闘争の話を振ってみたところ、当時この男性は現場に居たと言うので、やや躊躇いがちに「『ぼくの村の話』っていうマンガ知ってますか?」と訊ねたところ、「機動隊では、みんな読んでいた」とのことだった。ひと言ぽつりと出た「あんな事は、僕らもしたかなかったんですよ」という言葉が今でも記憶に残っている。

 

 「行政代執行」から随分と遠いところまで来てしまったが、マンガには並みの文学作品には及びもつかない数多くの傑作が存在しており、学生の皆さんにおかれては(もちろん文学作品も読んで欲しいのだが)、マンガも色々と貪欲に読んで頂きたいところである。

 マンガ批評の分野では、先に挙げた呉智英が、その先駆者として讃えるべきところであるが、代表的なものとしては、1986年に刊行され、現在は双葉文庫になっている『現代マンガの全体像』などが挙げられる。 

現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

現代マンガの全体像 (双葉文庫―POCHE FUTABA)

 

  大学二年生の頃、私は駒場図書館に籠もって『ガロ』のマンガ評論新人賞に送るため原稿用紙にせっせと拙い文章を書いていたが、最終選考には残ったわたしの作品への誌上での「講評」で、呉智英氏から痛烈な批判を頂いたのは、今となっては良い思い出である。

 

 追記:上記の新人賞用の手書き原稿をワープロで打ち直してくれた同級生の水谷くん、改めて有り難う。

 

 追記2:どうでもイイ話なのだが、冒頭で成田空港の話を書いているところ、海外に行く時以外にも、外国からの友人が国内線への/からの乗り換えで成田に来た際、成田イオンモールに連れて行ったりするのだが、彼らはイオンに行くと目を輝かせて喜んでくれる。同様のことがある場合、ココはお薦めの場所である。

 このイオンモールでは、成田にはタイ人がいっぱい居るのだが、私がモールを歩いていると、タムロっているタイ人の若者たちが一斉に私の方を向いて目礼することが、何度もあり、困惑したことがある。タイの貴人?で私に酷似した人が居るのだろうか・・・というのが年来の疑問なのである。