驚天動地の逃亡活劇--顔伯鈞著・安田峰俊編訳『「暗黒・中国」からの脱出』

 昨日、読み終わった安田峰俊編訳『「暗黒・中国」からの脱出』について、以下。この本、安田さんの「編訳」になってるけど、もともとの原稿は顔伯釣という中国の民主化運動をしている人から、書き溜めていた30万字を超える分量の原稿を安田さんが託され、その内容を編集しつつ翻訳したという体裁のもの( 30万字そのまま本にしちゃったら新書だと6冊くらいになっちゃうから汗)。

  著者の顔氏は、北京の中央党校を出たエリートで大学教授をしていたのだけれども、民主化運動(実のところ、かなりマイルドなもの)をしていたところ、当局から目をつけられ、中国全土をまさに三国志水滸伝さながらに逃げ回るという話。冒頭、本当に偶然、安田さんが、この顔さんをひとに紹介されてから、いきなり彼の逃亡記の原稿を託されるまでの超展開に、読者はまずひっくり返ります。

 冒頭で安田さん自身、「率直に言って、中国の民主化運動への関心はあまりなかった」と正直に書いており、わたしも実はそうだったんだけど、この本は、民主化運動云々というコトとはともかくとして、一つの物語としてホントにぶっ飛んでいます。

 もともとの顔氏の原稿のタイトルは「天子門生逃亡記」なんだけど、これは中央党校が本当にエリート養成機関で、その歴代の校長がその後の国家主席とかだから(習近平も校長してた)。つまり、往時の皇帝の殿試に臨んだ科挙エリートに模して、自らの逃亡を描いてるわけ。

 逃走経路がもう本当にアレで、先ず北京を脱出した後、中国の地下キリスト教会のネットワーク、回族イスラム)の協力者、元ネオナチのニートのあんちゃんトコ、雲南少数民族、そしてミャンマー国境に蟠踞する元紅衛兵軍閥将軍、チベットの山越え、そしてタイ・・・と読んでて、めまいがします。何なのコレ、いったい?汗

 国保局(公安部国内安全保衛局)員が著者を捕縛するために講義をしている大学の教室にやって来て最前列に座り威嚇するんだけど、彼らを前に滔々と講義を行い、あまつさえ内容を納得させてしまう話、とても好きです。

 『独裁者の教養』の中でも触れられていたと思うんだけど、ミャンマーとの国境地帯に勢力圏を持つ、元紅衛兵軍閥の話は本当に面白いですね。この辺りの話、本当にもうメチャクチャで意味不明なんだけど、中央党校出てるから毛沢東のこととかも詳しいわけで、その知識が役立って現役熱烈毛沢東主義軍閥将軍と話が盛り上がるところとか、本当に好き。 

独裁者の教養 (星海社新書)

独裁者の教養 (星海社新書)

 

  しかし、中国で民主化運動やるのとか本当に死ぬほど根性がないと出来ないし、みんな恐ろしいほど腹が据わっているなと驚愕した。あと、熱い!暑苦しすぎる・・・。実は私は劉暁波の書いたモノとかも結構好きでぽつぽつ読んでるんだけど、『現代中国知識人批判』とかは本当に名文なのでオススメです。超勢いがある文章です。読んでて変な元気が出て来ます。 

現代中国知識人批判

現代中国知識人批判

 

  読んでのお楽しみだけど、今回の顔・安田本、ラストで物語りの冒頭へと視点が入れ替わって往還するところでは、思わず「おおおおぉぉ」と叫んでしまいました。

 というワケで顔 伯鈞 (著), 安田 峰俊 (翻訳)『顔「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』 (文春新書 1083) 、とにかく黙って買って読め本です。

 

 なお、安田さんの他の本については、以下の過去のエントリーなどもご参照。最近、文庫版が出た『和僑』の巻末解説は私が書かせて頂いていますので、そちらも良かったどうぞです。

taniguchi.hatenablog.com 

 

「好戦的」な10代女性と「平和主義」の60代男性?

 『AERA』2016年5月16日号で【大特集:あなたは憲法が好きですか?】という特集をしており、ちょっと気になる記事があったので買ってみたのだが、最初にお目当てだった記事よりも興味深い記事があったので、講義資料のメモを兼ねて以下に記しておく。 

AERA(アエラ) 2016年 5/16 号 [雑誌]

AERA(アエラ) 2016年 5/16 号 [雑誌]

 

  本エントリーのタイトルは少し煽り気味でスイマセンなのだが、初読の際に印象に残ったのは、まさにコレだったのだ。

 本当は掲載されている男女の世代別のデータも含んだグラフ全体を載せたいところなのだが、さすがに悪いので、以下、概要をかいつまんで。なお、本記事は、国民投票住民投票情報室の今井一氏によるもの。氏は以下のような本も出されているので、参考までに。 

  記事は「自衛戦争自衛隊認めますか?」というタイトルのもので、11都府県700人への対面調査を行っているが、この結果が、とても面白い。以下2つの設問に対するアンケート結果。(但し、実際の誌面を見て貰えば分かるのだが、いずれの設問も、実際のアンケートで使用されたものは、もう少し詳細なものになっていることを注記しておく)。

 

※ 以下、数字は全て「%」表示。 

 

設問1.「戦力としての自衛隊を認める?」
[以下、認める/認めない]
[全体] 66.5 /33.5
[男性] 77.9/22.1
[女性] 55.0/45.0

 

 男女でクッキリ差が出ている。年齢別で見ると更に面白くて、設問1に「認める」と回答したのが最も多かったのは[男性20代]で、92.6。女性はほぼ全世代にわたって軒並み「認める」が50を大きく割り込んでいる。

 しかし、[女性10代]だけが突出してその傾向から逸脱しており、71.7が「認める」となっている。これは何故なんだろうか?

 全体として見た場合の大きな傾向性としては、男女を問わず、高齢者(60歳以上)になるほど「認めない」傾向が強い

 

設問2.「自衛のための戦争を認める?」
[以下、認める/認めない]
[全体]53.6/46.4
[男性]65.3/34.7
[女性]41.8/46.4

 

 またもや男女差がクッキリ。先ず女性に関しては、[女性40代]が「認めない」で突出しており66.7。最も「認める」のは[女性30代]で51.9。コレは本当に不思議。

 [男性20~40代]が軒並み「認める」の割合が高く、76~80となっているが、[男性50代]から56.3とガクンと落ち込み、[男性60代]になると男性内で最低の42.9まで落ち込むしかし、[男性70代]になると再び「認める」が55.6まで回復。

 

● この[男性60代]というのは、とても興味深いのだが、以下などを読めば何か分かるのだろうか?(未読)メモ代わりに。 

  

 今回は n=700 だったワケだが、これがもっと大規模に行われたらどうなるのか実に興味深いと思ったし、また憲法記念日の新聞などでも、こういう客観的なデータをもっと載せて、議論の土台を作るように努めて欲しいと思った。--以下はこの調査結果を見て思ったことなどを羅列的に。

 

自衛隊を戦力として「認める」けど、自衛戦争は「認めない」”という人は、[全体]で12.9、[男性]で12.6、[女性]で13.2いるということになる。

 ● 自衛戦争を「認めない」ってのは、何なんだろう?「非暴力不服従」?「絶対的平和主義」?・・・本当に、そんなコトを考えているのだろうか。「戦争」という言葉に脊髄反射してるだけでは、という疑いを持った。

●  上記の「非暴力不服従」や「絶対的平和主義」の立場は、「殺されても殺さない」といった凄まじく高い道徳的要請を内包するものであり、仮に先の12.9の人びとがそれを真摯に信じていたとしても、それ以外の80を越える人びとにもそういう考え方を押しつけるのは無理ではないだろうか(実際わたしはお断りである)。

● これら2つの立場が9条の解釈として「無理である」というのは、修正主義的護憲派の代表的論者である長谷部恭男も認めている。以下に、とても分かりやすく書いてあるので参照されたい。 

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

 

● 余談ではあるが、私は上記の長谷部本を使って10年近く一年生向けの基礎ゼミをしてきたが、年を追うごとに「改憲」の立場を採る学生は増えて来ており、彼らの話を聞く限りでは別段「右翼」とか、そういうワケでは毛頭なく、自然体でそう思っているのを目にしている。

 ● また、上記の12.9%の人びとは、「自衛隊は戦力である。しかして、自衛戦争はダメだ。」という立場なのだが、これは一体どういう立場なのだろうか?「自衛隊はどうすれば良いのか」という観点からするなら〈壮大な欺瞞〉か、あるいは本当に〈何も考えていない〉かの二択なのでは?(コレが「在日米軍に完全にお任せ」ということを含意しているのなら、欺瞞もココに極まれりという感想しかない)

● 以上の点からするなら、ある種の解釈の歪みが自衛隊員へのしわ寄せとなっているのではないだろうか?ここ最近の議論を見ていて私が最も気になる点の一つはコレである。

 ● この点については、書き出すとキリがないので、最近出た下記の本を是非読んで欲しい。『兵士を見よ』以来の杉山隆男による「兵士」シリーズに匹敵する名著だと思う。 

自衛隊のリアル

自衛隊のリアル

 

 

・・・と、ココまで書いたところで非常に詳細なデータなども含むエントリーが冒頭に紹介した国民投票住民投票情報室のサイトに上がっているのを発見して脱力した(汗。以下、参照。

 

「自衛戦争」と「(戦力としての)自衛隊」に関する世論調査 | [国民投票/住民投票]情報室 ホームページ

 

  色々な思考を触発する、とても良い内容なので、上記、是非ゆっくりと、どうぞ。

 

【追記】最初にも書いた通り、タイトルが煽り気味なので、念のため正確なデータを付記しておくと、以下の通り。

[10代女性]

 戦力としての自衛隊を認める=71.7(女性内で最高)

 自衛のための戦争を認める=42.6(女性内で3位)

[60代男性]

 戦力としての自衛隊を認める=64.9(男性内で最低)

 自衛のための戦争を認める=42.9(男性内で最低)

J-WAVE/JAM THE WORLD出演補遺「多文化主義とはなにか?」

 2015年1月7日、J-WAVEの「JAM THE WORLD」 という番組の Breakthrough というコーナーに出演して来ました。お題は「欧米の多文化主義とはなにか?」。パーソナリティは萱野稔人さん(津田塾大・哲学)。時間は20:55~21:20くらいの、だいたい20分強くらい。これまでラジオは2回出演したことがあったものの、それらはゾンビ話で、マジメな話は今回が初めてなので正直、緊張しました。

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 ただ、東京に出てきて初めて J-WAVEを聴いて「コレが東京かあ!」と思っていた頃のことも思いだし、その点、素直に嬉しかったです。当日は、直前の仕事で一緒だった同僚の天野晋介先生(労働法)と河野有理先生(日本政治思想史)も折角なので、ということで六本木ヒルズのJ-WAVEまでご一緒し、「夜景すげえ!」とかみんなで、はしゃいでいました笑。

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 元旦にTwitterのDM経由で出演依頼があってからの準備だったので、質疑案を何とかかんとか作り上げて行ったものの、当日は、萱野さんがノリノリで「今日は自由にやりましょう!」とのことで、想定問答が崩壊し、実は泡食っていたり・・・。

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 一般の聴取者を意識した萱野さんからの問いかけ、切り回しはさすがではあったのですが、それだからこそと言うか、どうしても質問が大ぐくりなものにならざるを得ず、しばしば「えっ?それ聞いちゃうの?!(汗)」と言葉に詰まったりもしましたが、この点、ラジオをはじめとするマスメディアに出演してコメントすることの難しさを改めて痛感しました。

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 現今の欧州での出来事に関しては、わたしは比較政治とか地域研究が専門ではないので、出来るだけ「法哲学者」として回答出来る点に焦点を合わせようとはしたのですが、なかなか難しい・・・。専門家としての「良心の矩」についても考えさせられた経験でもありました。

 

 放送で言及した情報ソースなどについて以下、補遺として。

■ Multiculturalism の語のOEDでの初出 → 1965年 

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■ スタンフォード哲学百科事典の「多文化主義」の項目

 Multiculturalism (Stanford Encyclopedia of Philosophy)

■ ウィル・キムリッカの『多文化時代の市民権』 

多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義

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  • 作者: ウィルキムリッカ,Will Kymlicka,角田猛之,山崎康仕,石山文彦
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  なお、この放送で話した欧州の多文化主義や移民政策については、端的に内藤正典『ヨーロッパとイスラム』が最も手軽でありながら示唆に富む内容のものとなっていると思うので、是非どうぞ。 

ヨーロッパとイスラーム―共生は可能か (岩波新書)

ヨーロッパとイスラーム―共生は可能か (岩波新書)

 

  その他の文献や私じしんの考えについては、改めて以下をどうぞ。

taniguchi.hatenablog.com

 なお、番組終了後、同僚2人と恵比寿へ移動して焼き鳥屋で仕事の話の続きなどをしてから帰りましたが、「都心で会議→六本木→恵比寿とか東京カレンダーみたい!」などと、普段都心と縁のない3人で騒いでいたとか何とか。

 

 以上、出演の備忘も兼ねて。

 

移民/難民について考えるための読書案内--「郊外の多文化主義」補遺

 本エントリーでは『アステイオン』83号に掲載され、その後、ニューズウィーク日本版ウェブサイトに全文を4回分載+補遺で掲載される拙稿「郊外の多文化主義」に関する補足的な情報提供を行いつつ、移民/難民について考える上で参考になる文献などを紹介しておきたい。

 各節ごとに参考文献、各種情報のウェブ上のソース、ウェブ版拙稿では煩瑣を避けるために省略した「文末註」などを掲載しておく。

 なお、以下は、ウェブ上にある拙稿「郊外の多文化主義」へのリンク。

第1回:郊外の多文化主義(1)

第2回:郊外の多文化主義(2)

第3回:郊外の多文化主義(3)

第4回:郊外の多文化主義(4)-完 

補遺  :モスク幻像、あるいは世界史的想像力

 

アステイオン83

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1.北関東のルゾフォニア

 

● わたし自身が大泉町に行った際の記録。

● 外国人集住都市会議

● 文末註2:「実際わたし自身、先述の大泉町から太田市方面へタクシーに乗った際には何度も「本社からの出張ですか?」と聞かれた」 

 

2.多文化主義は失敗した?

 

● マリク論文の原文

 ● 文末註3:「難民問題は、欧州で起こっている他人ごととしてではなく、われわれ自身の問題として考えておかなければならない。われわれが最もリアリティを持って想定しなければならないのは、半島有事の際、北朝鮮から流入してくるだろう難民である。石丸次郎『北朝鮮難民』によるなら、そのほとんどは陸続きの中朝国境を越えると予想されているが、推定一万人程度の北朝鮮難民の日本への流入が予想されると言われている。韓国への脱北者の手記などを読めば分かる通り、彼らは「並みの難民」ではないのだ。資本主義も議会制主主義も一切知らず(東ドイツでさえワイマールを経験していた)、長期にわたって飢餓線上に置かれた結果、著しい発育不全やそれに伴うIQの低下、そしてわが国では一時に百人オーダーでは物理的に対応不能な多剤耐性結核に罹患している可能性のある難民なのである・・・。この点に関しては、是非、ブレイン・ハーデン著 『北朝鮮14号管理所』を手に取って頂きたい。」 

北朝鮮難民 (講談社現代新書)

北朝鮮難民 (講談社現代新書)

 

  

北朝鮮 14号管理所からの脱出

北朝鮮 14号管理所からの脱出

 

 ● 参考:北朝鮮の多剤耐性結核菌感染症や健康状態に関する報告

 

3.多文化主義の根源的問題性 

 

● 拙稿で触れた部分以外も大変興味深い内容になっている。非常に面白い本なので、もっと多くの人に読まれることを期待したい。とても勉強になる。

反転する福祉国家――オランダモデルの光と影

反転する福祉国家――オランダモデルの光と影

 

  ● キムリッカによる多文化主義理論の古典的著作。

多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義

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 ● 上記、キムリッカに対する批判。色々な論者が寄稿しており大変面白い。

Is Multiculturalism Bad for Women?

Is Multiculturalism Bad for Women?

 

 ● 圧倒的名著。読まないのは「損してる」と言っても過言ではない。文庫版解説ではシャルリ・エブド事件についても触れているが、まさか半年後にパリであのような事件が起こることになろうとは・・・。

十字架と三色旗――近代フランスにおける政教分離 (岩波現代文庫)

十字架と三色旗――近代フランスにおける政教分離 (岩波現代文庫)

 

 ●  フランス〈共和国〉とは何なのか?を憲法学者の視点から説いた名著。「ルソー=ジャコバン型」国家モデルなどについての説明も。法学部の学生は必読。

近代国民国家の憲法構造

近代国民国家の憲法構造

 

 

4.多文化主義は失敗していない?

 

 ● 森千香子「ムスリム移民はスケープゴート」

Wedge (ウェッジ) 2015年 3月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2015年 3月号 [雑誌]

 

 ● イギリスのムスリムの現状などに関する極めて浩瀚な研究書。たぶん、現段階では、これ以上のものは無いのでは?

リベラル・ナショナリズムと多文化主義: イギリスの社会統合とムスリム

リベラル・ナショナリズムと多文化主義: イギリスの社会統合とムスリム

 

● 上記、安達氏によるものとしては、下記なども読みやすくてオススメ。

イギリスの若者ムスリムたち――「市民であること」の要件としてのイスラーム / 安達智史 / 社会学 | SYNODOS -シノドス-

● ココからも色々、読めるか。

安達智史 | 東北大学文学部 社会学研究室

 

5.「多文化共生」から「統合」へ 

 

● 日系ブラジル人問題を考える上での必須文献。大変、勉強になった。

顔の見えない定住化―日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク

顔の見えない定住化―日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク

 

● 小笠原美喜「「多文化共生」先進自治体の現在―― 東海及び北関東の外国人集住自治体を訪問して」『レファレンス』平成27年8月号

『レファレンス』|国立国会図書館―National Diet Library

 

● 森千香子「郊外団地と「不可能なコミュニティ」」 

現代思想2007年6月号 特集=隣の外国人 異郷に生きる

現代思想2007年6月号 特集=隣の外国人 異郷に生きる

 

● 森千香子「「施設化」する公営団地」 

現代思想2006年12月 特集=自立を強いられる社会

現代思想2006年12月 特集=自立を強いられる社会

 

● 森千香子氏の一連の研究は、今回の原稿を執筆する上で大変参考になったが、以下の講演記録「フランスにおける郊外の若者の経験とイスラーム」は、大変考えさせられる内容になっている。物凄く面白い研究をされている方なので単著の刊行も切望される。

www.youtube.com

 

6.福祉国家とナショナリズム

 

● 映画「サウダーヂ」。機会があれば、是非、観て欲しい。傑作、傑作、傑作。

● わが国において、自らの苦境をラップの歌詞に乗せて歌う深刻な事例としては、「鬼」による『小名浜』や「Anarchy」による『FATE』などに、その極点を見出すことが出来る。そこには、フランスの郊外でラップに乗せて絶望を歌う若者たちとの相同性さえ見出すことができるだろう。

● ヒップホップとコミュニティとの関係については、下記、拙ブログのエントリーも参照。

● また、フランスにおける暴動とラップの関係については、森千香子「炎に浮かぶ言葉――郊外の若者とラップに表れる「暴力」をめぐって」を参照。 

現代思想2006年2月臨時増刊号 総特集=フランス暴動 階級社会の行方

現代思想2006年2月臨時増刊号 総特集=フランス暴動 階級社会の行方

 

● 余談だが、最近、米村幸太郎さん(横浜国立大・法哲学)に教えて頂いた、以下のような人も・・・。> ブラジル生まれ新宿育ち、今年で25歳のラッパー・ACEさん。

 ● ストーリー共同製作者である鈴木大介氏からの情報提供により真にリアルなものとなっている。『ナニワ金融道』から『闇金ウシジマ君』を経て、とうとう我々はココまで来てしまった・・・。

ギャングース(9) (モーニングコミックス)

ギャングース(9) (モーニングコミックス)

 

 ● リベラル・ナショナリズムについての必須文献。

ナショナリティについて

ナショナリティについて

  • 作者: デイヴィッド・ミラー,富沢克,長谷川一年,施光恒,竹島博之
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● 文末註12:「ただ、この点(=ナショナリティに関する民主的討議)に関しては、ブラウン事件に見られるように「民主的正統性にもっとも乏しい司法府」の「非民主的議論」によってアメリカでの人種差別の解決が領導されて来た点などに留意する必要がある。――大屋雄裕「配慮の範囲としての国民」『成長なき時代の「国家」を構想する』(ナカニシヤ出版、二〇一一年)を参照。」 

成長なき時代の「国家」を構想する ―経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン―

成長なき時代の「国家」を構想する ―経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン―

  • 作者: 中野剛志,佐藤方宣,柴山桂太,施光恒,五野井郁夫,安高啓朗,松永和夫,松永明,久米功一,安藤馨,浦山聖子,大屋雄裕,谷口功一,河野有理,黒籔誠,山中優,萱野稔人
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
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● リベラル・ナショナリズムに関しては、安藤馨氏(神戸大学・法哲学)との会話で非常に重要な示唆を頂いた。ミラーの議論も含む移民政策と福祉国家との関係についてのヨリ詳細な議論は、同氏のサイトに掲載された以下のペーパーを参照されたい。

Ando, Kaoru(2015)Ethics of State Control over Immigration

神戸大学大学院法学研究科 安藤 馨

● 「健全なナショナリズム」と「真摯な福祉国家」の結合について:文末註13:「筆者は、このような事柄を政治的に実現するための現実的な処方は、「健全な国防ナショナリズム」と「真摯な社会民主主義」を結合させた往時の「民社党」的な政治勢力の再興しかないのではないかと考えるが、この点については近日中に別稿で更に詳細な議論を展開することにしたい。」→ 以下などを参照。 

私と民主社会主義―天命のままに八十余年

私と民主社会主義―天命のままに八十余年

 

  

民社党の光と影

民社党の光と影

  • 作者: 伊藤郁男,黒沢博道
  • 出版社/メーカー: 富士社会教育センター
  • 発売日: 2008/07/02
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〈補記〉  

● 技能研修生の闇と日系ブラジル人の窮状などを先駆的に描き出している。

ルポ 差別と貧困の外国人労働者 (光文社新書)

ルポ 差別と貧困の外国人労働者 (光文社新書)

 

 ● ひとの移動と国境について、めくるめく世界を垣間見せてくれる名著。これを読んでいないのは「人生損している」と言っても過言ではないくらいの名著。年末年始にでも、是非どうぞ。

境界の民  難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々

境界の民 難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々

 

 

蛇足ではあるが、以下、上記に関連する本ブログ内での過去のエントリー。

以上。

 

 

 

「エンブレムです・・・」(挨拶)

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 以下、ある本について以前書いておいたものを気が向いたのでアップしておく。特に何も考えずにアップしている。

(近所の某Fの科学会館にて)
私「すいません~、こちら本も扱ってますよね?」
某Fの科学会員「あ、大丈夫ですよ。何をお探しですかあ?」(とても感じが良い)
私「新刊の《左翼憲法学者》のやつなんですが」(タイトルにそう書いてあるのである・・・)
会員「あぁ、これですね。どうぞ。ご興味あるんですかぁ、こういうこと?」
私「はい、友人(某実定法学者)から勧められて~」
会員「会員の方ですか?」
私「いえ、いつもこの前通ってて、ここならあるかな、と思って笑」
会員「ですよねー笑。1,512円ですー」
私「ありがとうございました~」


(わたし、外に出る)
会員(走って出て来る)「あのお、これに署名して頂けませんか?」
(村山談話撤回請求署名!)
私「あ、すいません、家族の決まりで署名はしないことになってるので、ホントごめんなさい」
会員「あ、こちらこそ、すいません」
私「いいえ~、頑張って下さいね、でわまたー」

ゲッツ!

主婦が5人いて、とても感じが良かった。

 帰宅。30分で読了。うーん、最初の方は相当面白いんだけど、半ばから非常にダルになる。最後の方は何かHSBさんが『文学部唯野教授』の日比根みたいになってしまっている・・・。最初の笑いどこは某刑法学者のもらい事故。HSBさんと一緒で「何でWSDに移ったの?」と穿鑿された挙げ句、「定年だったという説もある(キリッ」とか書かれてて、変な汁が出そうになる。
 次の笑いどこは、ホントは最初はKBYS-NOKを呼ぼうと思ったら、93歳で生きてた!でも、もうすぐ死にそうなんで、霊言すると負担がかかって可哀想なんでやめといたるわ、とのコト。
 それに続けて、某同僚のもらい事故。「「左翼の救世主」とか呼ばれてるけど、34歳と若くて霊言のショックには耐えられないだろう、可哀想だからやめといたるわ」とのこと(おいおい・・・汗)。
 とかナントカ最初のほうでOKW総裁(本人)が解説した上で、HSB守護霊を呼び出すんだけどさ、HSB守護霊の登場が、下の写真・・・。

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 あのさあ、笑い殺すつもり?

 

 まあ、正味、ここが一番の笑いどこでもあるんだけど、俺、笑いすぎて、一時的に動けなくなったよ。「ああ・・・」ってさあ・・・。

 その後はだいぶんダルなんだけど、最後の方でまた少し盛り上がり、HSB霊はH-Sci大学の不認可はケシカランと怒って共闘したみたり、WSDの総長になりたいとか、OKW総裁みたいに本が売れたいとか赤羽あたりの酔っ払いのジジイみたいなクダを巻き続ける。

 つうか、この霊言、俺にゴーストやらせろよ、もっと爆笑出来るもんにしてやるからと思ったりも。(その後、友人から「霊言のゴースト」という表現に接し、「霊の幽霊はどのようなものか」との質疑を受ける・・・。)

 このシリーズ、某夭折の刑法学者霊言とか恐ろしいほど玄人好みのものも出ているが、こういう形でやるのの法的な問題性は大丈夫なのかな、とも。

還暦記念論集『逞しきリベラリストとその批判者たち』発売のご案内

 大変お待たせしましたが、本日8月30日(日)段階で、『逞しきリベラリストとその批判者たち--井上達夫の法哲学』のAmazonでの販売が開始されており、また、週明けの9月初旬には書店にも並ぶとのことです。 

逞しきリベラリストとその批判者たち―井上達夫の法哲学

逞しきリベラリストとその批判者たち―井上達夫の法哲学

  • 作者: 瀧川裕英,大屋雄裕,谷口功一,安藤馨,松本充郎,米村幸太郎,大江洋,浦山聖子,藤岡大助,吉永圭,池田弘乃,稲田恭明,郭舜,奥田純一郎,吉良貴之,平井光貴,横濱竜也,宍戸常寿,森悠一郎
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 単行本
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  以下では、共編者のひとりとして、簡単な紹介をしておきたいと思います(谷口による補足も行った詳細目次は以下の通り)。

 ● はじめに(瀧川裕英)

《第Ⅰ部》

第1章 『規範と法命題』――行方を訊ねて(安藤馨)
第2章 『共生の作法』――円環の潤い(谷口功一)
第3章 『他者への自由』と共和主義の自由(瀧川裕英)
第4章 『現代の貧困』――批判的民主主義の制度論(松本充郎)
第5章 『普遍の再生』――どのようにして? そしてどのような?(米村幸太郎)
第6章 『法という企て』――人格への卓越主義?(大屋雄裕)
第7章 正義に基づく『自由論』(大江洋)
第8章 『世界正義論』――「諸国家のムラ」をめぐる疑問(浦山聖子)

《第Ⅱ部》

第9章 分配的正義(藤岡大助)
第10章 リバタリアニズム(吉永圭)
第11章 フェミニズム(池田弘乃)
第12章 戦後責任(稲田恭明)
第13章 憲法第9条削除論(郭舜)
第14章 生命倫理(奥田純一郎)
第15章 時間(吉良貴之)
第16章 法の本質(平井光貴)
第17章 立法学(横濱竜也)

《第Ⅲ部》

● 対談:「外部から見た井上/法哲学」(宍戸常寿×大屋雄裕/司会:谷口功一)

● 附録(森悠一郎)

Ⅰ 井上達夫教授著作目録
Ⅱ 井上達夫教授略年譜

● 編集後記(谷口功一)

● 索引 

 内容についての話に入る前に大書して強調しておくべき点は、本書は還暦記念論集の性格を持つものであるにも関わらず本体価格が、

 

 わずか3,000円!

 

 ・・・という点です。これに関しては本書の「はじめに」や「編集後記」でも強調されている点ではありますが、ひとえに版組みに関して甚大なご努力を頂いた安藤馨さんのお蔭であり、この点、改めて深謝したいと思います。これは前代未聞といっても良い価格ですので、価格面からも多くの方に手に取って頂ければと思っています。

 さて、既にご案内の通り、本書は井上達夫先生の還暦記念論文集の性格を持つものですが、従来的な還暦記念論集などとは異なり、第Ⅰ部では井上達夫の単行著作について、1冊ごとに担当者を決めて、その内容の紹介と批判的検討を行っています。
 また、第Ⅱ部では、井上達夫の法哲学世界に関わる個別イシューに関して、その領域を専門とする者が第Ⅰ部でと同様に井上の議論の紹介と批判的検討を行っています。

 共編者のひとりとして、私は主に企画立案、原稿回収に関わらせて頂きましたが、既に編集の段階でひと通り原稿に目を通した上での(個人的)感想は以下の通りです。

 読者によって読みドコロは様々にあろうかとは思いますが、本書最大のセールスポイントの一つは、安藤馨による「規範と法命題」に関する本格的論攷(第1章)の存在です。
 これまでその存在は知られていたものの、井上の助手論文を元にしたこの論文の内容紹介と批判的検討が行われているのは《本邦初》であり、それが読めるのは、本書だけです。

 各章ともに興味深い内容となっていますが、個人的にもっとも興味深く読んだのは、瀧川裕英による『他者への自由』に関するもの(第3章)で、そこで展開されている井上法哲学と「共和主義」との関係についての議論には、はっとさせられるものがありました。
 この他にも、第Ⅱ部では、昨今議論の喧しい、九条関連で、国際法学者でもある郭舜による井上の「憲法第9条削除論」の検討なども行われています。

 なお、わたし自身は、第Ⅰ部第2章で『共生の作法』を担当させて頂いていますので、そちらの方もお読み頂ければ幸いです。後述の対談パートでも出て来る九〇年代の時代状況の話から始まり、主として「会話としての正義」についての検討を行っています。

 

 以上の本体部分とは別に、本書には3つの豪華なオマケが付いています。

 一つめの豪華オマケは、かつて井上法哲学ゼミにも参加されていた憲法学者の宍戸常寿氏(東京大学)をお招きし大屋雄裕との間で行った対談「外部から見た井上/法哲学」です。
 同じ時期に井上ゼミで学んだ、宍戸(憲法)×大屋(法哲学)の対談を私(谷口・法哲学)が司会として切り回す形になっていますが、ほぼ完全に同世代のこの3人が九〇年代の駒場時代から回想し、今日にいたるまでの井上法哲学を語るものとなっており、一種の世代的な歴史の記憶としても読んで頂けるのではないかと思います。この中では井上の「九条削除論」についても触れています。また、宍戸さんによる井上法哲学とドイツ公法学(シュミット、スメントなど)との対比も読みドコロの一つかと思います。

 二つめと三つめの豪華オマケは、井上達夫の「著作目録」と「略年譜」です。これらは現在、法哲学の助教をされている森悠一郎さんの強力な調査能力によって作成されたもので、今後も長く役立つ一級の資料となるでしょう。

 つい先日、井上先生ご夫妻もお招きし、本書の献呈式を都内のレストランで行って来ました。本書は企画立案から刊行に至るまで、井上先生にはナイショで作られたものですが、献呈式の際には井上先生から「なんかコソコソやってると思って、分かってたんだゾ!」と言われてしまいましたが、ともあれ、今般このような形で還暦記念論文集を刊行出来たことを本当に嬉しく思っています。

 以下、本書末尾の「編集後記」から抜粋し、本エントリーの締め、というコトで。本書が多くのひとの手に取られることを期待したいと思います。

 大昔のノートを取り出して見ると、私が初めて井上達夫先生の姿を目にし、その声を耳にしたのは、1995年10月3日の火曜日だったことが分かる。この年の「法哲学」の初回講義が、本郷キャンパス法文1号館21番教室で行われた日だ。 
 今日に到るまでの人生の大きな転回点となった、この日この場所での出来事を、私は生涯忘れることはないだろう。それから、ちょうど20年の歳月を経て、今般、井上先生の還暦記念の書に執筆者の一人として名を連ねることが出来たことは、私にとって大いなる悦びであり、また幸いである。本書をもって、海よりも深く山よりも高い井上先生の学恩に些かなりとも報いることが出来ればと思うばかりである。(谷口功一)

 

『がっこうぐらし』 とゾンビ法哲学

 深夜アニメ「がっこうぐらし」がゾンビ物とは仄聞していたのだが、先日、連日の行政雑務その他による繁忙のため心が折れていた深夜、第1話から第6話までを一気に観てしまった(つい、かっとなってやった)。

 本エントリーはゾンビ好きの法哲学者がテキトーに書いたもので、タイトルに余り意味はないです。以下の本の訳者・解説者です。 

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

  • 作者: ダニエルドレズナー,谷口功一,山田高敬
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2012/10/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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  あと、下記、ネタバレにはご注意下さい。

  TVアニメ「がっこうぐらし!」公式サイト 

がっこうぐらし! 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

がっこうぐらし! 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

 

  折角なので、本屋でマンガ版の方、試しに3巻まで買って来て読んだが、とても面白いので、明日残りの3巻を買って来て読むことにした。あと、さっきアニメの第7話を観た。今回は『方丈記』か。ゾンビ・プルーフ・ハウスとしての方丈庵(違。

all-that-is-interesting.com

以下、思いつくままに列挙的にメモ。

● シャベル使ってるの高評価。映画じゃなくてオリジナルの小説の方の『WORLD WAR Z(WWZ)』読んだのかな?小説の中で、対ゾンビ最終兵器としてシャベルを進化させたみたいな奴が出て来るんだよね。核兵器とかよりも、こっちの方が全然役に立つ!みたいな。 

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

 

 ● シャベルについては、「あっ」と思ったんだけど、このマンガ(アニメ)の作者どこの出身かなと思って調べてみたところ、原作・海法紀光(神奈川県出身)、作画・千葉サドル(福岡県出身、大阪在住)なので、「作画者」の意識?が反映されてるのかあ、と思ったり。何の話かというと、コレ↓のことを西日本では「シャベル(ショベル)」と呼び、東日本では「スコップ」と呼ぶらしいのだ。もちろん私は、コレ↓のことをシャベルと呼ぶ。

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www.yukawanet.com

 ● ごく最近、瞬間的に流行った「高枝切りバサミ」が出て来た!(予言的である)。

● アニメで観ると「はわわわ」みたいな「萌え」?要素が容赦ないトコもあるが、マンガも併せ読むと、とても面白い展開を期待出来そう。「はわわわ」的要素と深刻な状況との結合で、或る種の異様な雰囲気を醸成しているようにも評価出来る。一種の異化効果か。
● 主人公?は、「聖愚者」的モチーフなのかな、とか。

● ショッピングモールはお約束だよね。好感。

● モールのピアノの上でゾンビに群がられるの2010年のフランスのゾンビ映画『ザ・ホード--死霊の大群』(La Horde)の或るシーンを思い出すなど。ちなみにこの映画は本当に胸クソ悪い映画だった。オススメしない。フランスの郊外(Banlieue)の荒廃が描かれているなあ、とは思ったが。 

ザ・ホード 死霊の大群 [DVD]

ザ・ホード 死霊の大群 [DVD]

 

 ● マンガの1巻で、ほのぼの系と見せかけつつ、いきなりソンビ物と判明する展開、好き。『アイアムアヒーロー』をコンビニで立ち読みしていて同じことがあった際、思わず深夜のコンビニで「おおおぉおぉぉ!素晴らしい!」と叫んでしまい、死にたくなったのを思いだすなど。 

アイアムアヒーロー(1) (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー(1) (ビッグコミックス)

 

 ● マンガ1巻の最後の付録にある「巡ヶ丘学院高等学校××年度 学園案内」に出て来る、「男土市」って何て訓むんだろう?と、しばらく考えていたら「男土」という文字がゲシュタルト崩壊して来た・・・。3巻の「職員用緊急避難マニュアル」と合わせ、よく作り込まれていて面白い。

●「男土市と西インド諸島との間に文化的交流がある可能性」云々と「本校の沿革」にあるけど、ゾンビの発祥が西インド諸島にあるのは周知の通り。前掲『ゾンビ襲来』収録の拙解説なども参照。 

 ● 2巻で「みーくん」がパンデミック発生直前に本屋で読んでた「飜訳は読んだから読めるかなって・・・」の洋書、スティーブン・キングの『ザ・スタンド(The Stand)』か。パンデミックものなんだよな、コレ・・・。

● 2ちゃんで見つけたけど、「校訓「夜にては恐れに向き合い/暁にては希望を捨てず/昼・・・・」は、ロメロの、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「ドーン・オブ・ザ・デッド」「デイ・オブ・ザ・デッド」のシリーズの題名と内容にリンクしてる」か。ますます好感。ところで、この校訓はアニメの方?


 ゾンビ関係の本、先日すべてゆうパックで研究室に送ってしまったので、今度行った時に段ボール2箱分くらい自宅に送り返しておくこう・・・。

 それはさておき、拙訳・解説の『ゾンビ襲来--国際政治理論で、その日に備える』は、本体部分では「がっこう」でのゾンビとヴァンパイアについて対比してる部分が本作品を観る上で参考になるかもしれないが、巻末の解説部分で書いた「ソンビの社会文化史」その他が参考になるかもね、と思ったり。「がっこうぐらし」の副読本として、是非!

 参考までに以下、本ブログ内にあるゾンビ関係のエントリー一覧。

 

 なお、原稿はちゃんと書いてますので・・・>どことなく。

 

taniguchi.hatenablog.com  

taniguchi.hatenablog.com 

taniguchi.hatenablog.com 

taniguchi.hatenablog.com 

taniguchi.hatenablog.com

 

 

『神聖喜劇』 と「なけなしの公共性」

 昨日迂闊なことをペロっとtweetしたら、色々な方からご教示を頂いた。

  「戦前日本の場合、陸軍は階級+殿、海軍は階級ママなんですよ。」とのことである(大屋雄裕先生その他の方からのご教示)。

 途中から話題が逸れて、旧日本陸軍の数の数え方(4→○ヨン/×シ、7→○ナナ/シチ×等)になったが、これは『砲兵操典』に基づくものである。ーー シチはハチなどと聞き間違えるのでダメという話。

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 上記の旧陸軍(砲兵)の数の数え方については、以下の論文をまた別の方からご教示頂いた。多謝である。

安田尚道「ヨン(四)とナナ(七)」『青山語文』40号、2010年  

http://www.agulin.aoyama.ac.jp/opac/repository/1000/11804/00011804.pdf

 以上のようなコトをしていて、ふと思いだしたのだが(巨人風に「ゆくりなくも」と言うべきか)、私は昔、大西巨人神聖喜劇』に登場する文献のリストを作っていたのだった・・・。

 なぜ唐突に大西巨人かというと、上記の軍隊での数の数え方云々という話は『神聖喜劇』の中に出て来る有名な話だからである(「賤ヶ岳の七本槍」事件のち大前田文7)。

 リストは、下記のような1巻についてのみの、しかも不完全なものしか残っていないが、折角思いだしたのだし、何か役立つこともあるかもしれないので、以下、貼っておく。

 念のため言っておくと、以下は、今から14年前、大西巨人掲示板に私が貼ったものからの転載である。この掲示板、とあることから荒廃を極めたのだが、興味のある人は検索で探してみれば良いだろう(すぐに見つかる)。

 「レッツ文献リスト作成」は、そのような状況を打破するために私が打ち出した「なけなしの公共性」だったのだが、見事に失敗し、人びとを公共性へと誘うことの難しさを痛感したのだった。まあ、私もまだ28歳とかだったので甘かったのだ。


神聖喜劇』第1巻登場文献リスト(隅括弧内は該当頁数)

■世話話『人情話文七元結』【15】
■『軍隊内務書』【17】
■トマス・マン『自伝』(?)【20】
■トマス・マン『ブッテンブローグ家の人々』【20】
■アントン・チェホフ『伯父ワーニャ』【49】
■アントン・チェホフ『桜の園』【49】
■『砲兵操典』【53】
■『通信教範』【53】
■『陸軍礼式令』【53】
■『言志録』【56】
■土岐哀果、「ちんぼこ」の歌【56】
生田長江訳、ニーチェ(?)【57】
■レーニンによるニーチェ批判(?)【58】

東堂が持っていった本【66】
■『広辞林』
■『改訂コンサイス英和新辞典』
■『田能村竹田全集』一冊本
■『緑雨全集』縮刷一冊本
■『三人の追憶』(?)
■『民約論』⇒ルソー『社会契約論』
■ソレル『暴力論』
リルケ(?)『歌の本』レクラム文庫の Buch der Lieder
ヘミングウェイ武器よさらば』モダン双書英語版

泉鏡花婦系図』【86】
■『勅諭』【97】
■レーニン『資本主義の最新の段階としての帝国主義マルクス主 義双書【103】
■レーニン『帝国主義岩波文庫【103】
■マックス・ベェア『社会思想史』【103】
■マックス・ベェア(?)『国際社会主義の五十年間』【103】
■レンツ『第二インタナショナルの興亡』【103】
■ステークロフ『第一インタナショナル史』【103】
マルクス『経済学批判』【107】
■『共産党宣言』【108】
コミンテルン第六回世界大会「決定」【111】
コミンテルン執行委員会第十一回総会「主報告と結語」【111】

このへん共産主義関係の文献が固まってるのを少し飛ばした。

■奥野他見男『学士様なら娘をやろうか』【119】
小津安二郎、映画『大学は出たけれど』【119】
■グチュコフ『非合法活動の根本問題』【124】
■カイザーリンク『一哲学者の旅日記』【131】
■『治安維持法』【133】
美濃部達吉憲法撮要』
美濃部達吉『逐条憲法精義』
美濃部達吉『日本憲法の基本問題』【以上、136】
荻生徂徠『徂徠先生問答』【141】
■『マテオ・ファルコネ』【142】
■マックス・ベェア『社会主義および社会闘争史』【147】
■菊池五山『五山堂詩話』【149】

 このへん漢詩の本が固まってるが、ズルして飛ばした。

■浦里冬雨『新詩集』【152】
■軍隊関係の本もろもろ【189】
■『被服手入保存法』【190】
■牧野英一「法律の不知」『法律新報』明治39年【191】
■旧『刑法』【191】
トルストイアンナ・カレーニナ』【205】
チェスタトン『木曜日と呼ばれた男』【209】
森鴎外「唇の血」『うた日記』【233】

■契沖『代匠記』そのたもろもろ【245】
■シュトルム『みずうみ』【251】
森鴎外「乃木大将」『うた日記』【258】
ポポフ『日本資本主義発達小史』【259】
■田中康男『戦争史』【259】
■啄木歌「君に似し」【261】
■『袖萩祭紋』【261】
■エマーソンの論文?【269】
■啄木歌「赤き緒の」【279】
■「盲導犬ひたたよりつつ平田軍曹」【284】
■齋藤緑雨『あられ酒』『おぼえ帳』【287】
■『言志後録』【287】
永井荷風『新帰朝者の日記』【288】
■『軍隊手帳』【298】
■『陸軍懲罰令』【300】
■『陸軍刑法』【301】
■『四書』『春秋(左氏)』【306】
■リープクネヒト『追憶録』【307】
■リープクネヒト『土地問題』【307】
ダシール・ハメット『血の収穫』【307】
■中条信衛『封建的身分制度の廃止、秩禄公債・・・』【310】
森鴎外「かしこのさまは/帰らん日」【315】
長谷川伸の小説【315】
■ソレル「スペインに処女なし」【318】
石川達三『生きている兵隊』【320】
■ツェトキン『レーニンの思い出』【320】

■『韓非子』【325】
■津阪東陽『ワイサンロク』(字がめんどい。。)【328】
■『詩経』【332】
■岡本弥『特殊部落の解放』その他もろもろ【347】
島崎藤村『破戒』【373】
ファランド『アメリカ発展史』【386】
■『保元物語』【388】


 余談だが、大西巨人本人には一度だけ直に会ったことがある。彼の書いたものは、ほぼ全て読んでいたので、とても嬉しかったのを、よく覚えている。HOWS(ハウズ=本郷文化フォーラム・ワーカーズスクール)が2001年4月21日(土)に催した大西巨人の講演「戦争・性・革命ー21世紀と文学の未来を語る」に行ったのだった。それから13年、2014年に大西は逝去した。

 

追記:何度も忘れて、そのたびに困るので下記、拳々服膺。

「つはものの 武勇なきには あらねども 眞鐵(まがね)なす べとんになぐる 人の肉(しし) 往くものは 生きて還らぬ 強襲の・・・」鴎外『うた日記』中の「乃木将軍」

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公民権運動の長い隊列 (Obergefell v. Hodges)

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(上写真は、http://u111u.info/m4xF より)

 講義でも毎年、Bowers v. Hardwick, 478 U.S. 186 (1986) から始まり、Lawrence v. Texas、539 U.S. 558 (2003) に至るまでの歴史を話しているので、以下、講義ノートの改訂のための備忘も兼ねてメモ。適宜、内容を補充し、その都度、tweet などで告知することとしたい。

 

 アメリカ合衆国連邦最高裁判所は2015年6月26日、同性婚を禁止した州法を合衆国憲法修正第14条に基づき違憲とする判決を言い渡した。公民権運動の長い隊列に連なる歴史に新たな1頁が加わった。

 判決に関する詳しめの分析は以下の記事が参考になる。

  http://www.nytimes.com/interactive/2015/us/2014-term-supreme-court-decision-same-sex-marriage.html

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 歴史的判決であるが、結果は5対4の僅差で、判断は「(違憲)Kennedy, Sotomayor, Ginsberg, Kagan, Breyer」対「(合憲)Roberts, Alito, Scalia, Thomas」。

 合衆国最高裁の現在の構成(リベラル4、保守4、中間1)等は以下が分かりやすい。「5.6 現在の構成」の項目を参照。

 合衆国最高裁判所 - Wikipedia

 この判決を歓迎するリベラル側の反応は至るところで目にすることが出来るだろうから、保守派(共和党側)の反応に関する興味深い記事を以下にリンクしておく。New Republic 誌の記事で、タイトルは「同性婚と共和党の安堵の溜息(Gay Marriage and the GOP Sigh of Relief)」。 

www.newrepublic.com

 余談だが、GOPは Grand Old Party の略で共和党の別称。ロゴマークにもなっている。右下の小さなアイコンは共和党のシンボルの「象」(民主党は「ロバ」)。

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 追記:この記事の方が更に分かりやすいかも>保守派の安堵。

www.washingtonpost.com

 要するに同性婚をめぐる政治闘争には、とっくの昔に決着がついていて、共和党支持者でも若者とかは同性婚に対して寛容だし、共和党が激戦区を勝ち抜くために同性婚に対して明確な態度(反対)を採れば採るほど、政治思想上のポジションが中道から大きく外れる事態になっていたということ。コアな保守層にイイとこ見せるために無理くり闘ってきたのだが、これでやっと同性婚反対と言い続けるのをやめられて、ほっとしたという話。政治の妙を感じる話である。

 

 今回の判決(Obergefell v. Hodges, 576 U.S. ___ (2015))に関しては、現在進行形で編集中だが、以下に情報がまとまっている。下記、合衆国連最高裁のエンブレムの下の方に「Announcement Opinion announcement」というPDFファイルへのリンクがあるが、ここにシラバスが載っており、それを読むと判決の要点が分かる。

 Obergefell v. Hodges - Wikipedia, the free encyclopedia

 結果は歓迎すべきものだと考えるが、Kennedy の Majority Opinion で示された「結婚を神聖なものとして絶賛する」という趣旨の判決文の下りには若干の違和感(剥き出しのモラリズムのようなもの)を感じざるを得なかった。 

No union is more profound than marriage, for it embodies the highest ideals of love, fidelity, devotion, sacrifice, and family. In forming a marital union, two people become something greater than once they were.---Justice Anthony Kennedy

 その後、上記に関しては以下のような卓見があり、なるほどと思ったが、しかし、法の生命線は道徳との分離なので、たとえ方便だとしても危うい綱渡りだよね、と思うなど。

  とはいうものの、初めて読んだ時には怒りさえおぼえたBowers v. Hardwickからおよそ30年、ストーンウォール叛乱(1969)から数えるなら実に46年。ようやくここまで来た、という感慨は拭い得ない。

 ホワイトハウスの公式tweetで下のようなものを見た時には、思わず涙が出てしまい、アタマの中に Beatles の All you need is love. が鳴り響いた。下のYoutube流しながら、ホワイトハウスのgif画像みてみるとイイ・・・。


Love Is All You Need - Beatles

 

  赤は共和党のカラーで、青は民主党のそれなのだが・・・

 

 なお、これまでの経緯に関して、日本語で読めるコンパクトなものとして、宍戸常寿「合衆国最高裁同性婚判決について」法学教室 2013年9月号(No.396)。

 法学教室 2013年9月号(No.396) | 有斐閣

 以下の事柄について触れていたと記憶している。2年前の「結婚防衛法(DOMA)」に対する連邦最高裁からの違憲判決に関する記事で、奇しくも今回の判決と同じ日付である(6月26日)。

newsphere.jp

 

 

 Bowers事件などに関しては、小泉良幸『リベラルな共同体』(勁草書房、2002年)、特にその第1部によくまとまっていた記憶がある。 

リベラルな共同体―ドゥオーキンの政治・道徳理論

リベラルな共同体―ドゥオーキンの政治・道徳理論

 

 

  最後に、惜しくも2001年に44歳の若さで早逝したノンフィクション作家・井田真木子による『もうひとつの青春―同性愛者たち』(文春文庫、1997年)も、この際、思い出されても良いのでないだろうか。

 極めて優れたノンフィクションであり、その中では、所謂「府中青年の家事件」についても触れられている。

もうひとつの青春―同性愛者たち (文春文庫)

もうひとつの青春―同性愛者たち (文春文庫)

 

  以下の引用にも見られる通り、ここには一筋縄では行かない歴史があり、それもまた現在進行形で存在している。

サンフランシスコのカストロストリートは、たしかに異性愛者に拮抗して同性愛者の権利平等を勝ち取った街だったが、それは、同性愛者の中での平等を意味しなかった。あえて言えば、それは白い肌を持つ共和党支持の男性の同性愛者にとっての平等だ。そのほかの人々は、彼らが築くヒエラルキーの下部に配置された。ヒエラルキーの下層はアジア系が占め、また女性はつねに男性の下に位置された。すなわち、アジア系のレズビアンが最下層である。頂点に立つ白人同性愛者の男性は、香港あるいはフィリピンの移民のレズビアンが、どれほど貧困に苦しもうが、街路でレズビアン嫌いの男に殴られようが、ともに闘う姿勢はまず見せない。寧ろ、自分たちの富の蓄積に忙殺されている。また、ベトナムやタイの男性同性愛者に関しては権利などには無知なかわいい“坊や”であってほしいと思う一方で、自分たちが異性愛者から二等市民扱いされることには憤激する。[井田(1997): 85-86]。

  この先にも未だ、遙かに長い道が続いている。

 

  なお、 公民権運動(人種)については既にまとまったエントリーをアップしてあるので、そちらも参照されたい。 

taniguchi.hatenablog.com

「学会による政治的意見表明」に関する小文備忘

 思うところあって、高橋和之「学術的「学会」による政治的意見表明に思う」『ジュリスト』No.1213(2001.12.1)を久しぶりに読み返してみた。

 ジュリスト 2001年12月1日号(No.1213) | 有斐閣

 この小文(全3頁)、きわめて滋味深いものなので、以下にその内容をかいつまんで紹介し、もって自分自身のための備忘も兼ねておく。

 著者の高橋和之は1943年生まれで、長らく東大法学部で憲法学を教えた後、現在は明治大学大学院に所属している。わたし自身もかつて教師としての彼の講義(憲法1部)を聴講したが、「国民内閣制論」など大変興味深い研究を行ってきた研究者でもある。

 冒頭に挙げた小文は、高橋自身が所属する学会についての意見の開陳で、そこでは当該学会による「政治的意見表明」が問題とされている。要するに、「学会有志」の名の下に行う「署名」の類の是非が問われているのである。

 高橋はなにがしかの問題の「専門家集団である学会」が発言すれば、「それなりの権威を持ち、説得力も増すかもしれない」としながらも、そもそも、学会という存在は政治的問題への意見表明とは「原理的に相容れない性格を持つもの」ではないかと危惧する。高橋は自身の経験に照らし、以下のように論じている。

 たとえば、学会執行部が政府の特定の政策に反対する声明を「学会有志」名で出したいと提案する。ここでは「有志」とは何なのかが問題となる。語の素直な意味での「有志」とは「純粋に私的な立場で集まった志を同じくする人びと」を指すはずだが、上記のような執行部からの提案における「有志」とは、以下のようなものではないかと高橋は言う。

運営委員会に諮り、執行部が発案・調整の音頭をとり、会員名簿という個人情報を用い、学会の会計で行われる署名集め等の活動が、学会との関係で「私的」なものとは思えない・・・。(p. 2)

 高橋は、実のところ上記のようなものであるところの「有志」声明が出されることは、かかる声明が対外的に当該学会の「支配的・代表的見解」だという印象を与えることを危惧し、また、同時に対内的にも深刻な問題を惹起すると論じている。

 即ち、上記のような形で表明された見解(有志声明)が学会の「正統」として公定され、これに異論を持つ者は、英国国教会型の政教分離とアナロジカルな「容認」的寛容(お情け)の対象とされるに過ぎなくなるからである。

 結論として高橋は、上記のような英国国教会型ではなく厳格分離型に則り、「政治的コミットメントに対し中立の立場を貫くことこそ、学会の本質」だとする。

 この小論は、1998年、実際に高橋自身が所属学会で「有志」声明(署名)活動に反対の声をあげ、上記のような見解を事務局に「意見書」として送付した顛末こそが、実に興味深い読みどころでもある。
 
 高橋は自らの「意見書」を、声明の署名を求めるために発送される事務局からの郵便に同封することを要求した(パブリック・フォーラム)が拒否され、結果として、声明活動に要した費用分につき会費納入を拒否し続けたのである。「そのうち会費未納で除籍処分にされるのではないかと危惧しているが・・・」というオチには、昔読んだ際、思わず笑ってしまったのを久しぶりに思いだしたのだった・・・。

 本論末尾では、実際に行われた声明(署名)活動において、事務局から来た葉書が、賛否を問いつつ、氏名を公開することも選択可能としていることについての極めて深刻な問題提起も行っているが、これについては是非、本文に直にあたって読まれることを勧めておきたい。そこでは、

政治的意見表明を行う学者集団の社会的権力としての抑圧性

 ・・・が論じられている。

 高橋は『現代立憲主義の制度構想』に収録された「補論「戦後憲法学」雑感」の中で、戦後支配的であり続けた憲法学のあり方を「抵抗の憲法学」と呼び、それと対置させる形で「権力を我々のもの」として見る「制度の憲法学」を提唱するなどもしているが、憲法論議が盛んな昨今、様々な意味でインスパイヤリングな議論をしていることの備忘として、このエントリーをアップしておく。 

現代立憲主義の制度構想

現代立憲主義の制度構想